MMTにおける雇用保証制度(JG)と物価安定の関係とは?その仕組みと誤解を解説

経済、景気

現代貨幣理論(MMT)の議論では、雇用保証制度(Job Guarantee:以下JG)を導入することでインフレの抑制につながるとされています。この考え方は一見すると直感に反するかもしれませんが、その背後には通貨発行権を持つ政府の役割や、インフレの構造的要因に関する独自の視点があります。この記事では、MMTにおけるJGと物価安定の関係について、わかりやすく解説していきます。

雇用保証制度(JG)とは?

JGとは、政府が雇用の「雇い手の最後の砦」となり、民間で仕事が見つからない人に対して最低賃金で公共的な仕事を提供する制度です。職種としては、地域の福祉・環境整備・教育支援など、民間が担いにくい非競争的分野が想定されています。

この制度は、失業を「ゼロ」に近づけると同時に、労働市場における最低賃金の基準(名目アンカー)として機能することで、インフレ圧力をコントロールすることができるという主張がなされています。

MMTが考えるインフレの発生メカニズム

MMTにおけるインフレの根本的な原因は「実体経済の生産能力を超えた支出」です。すなわち、供給能力が追いつかないほどの需要が発生することで価格が上昇します。この点では、従来のマクロ経済学と共通しています。

ただしMMTでは、通貨を発行する政府には財政赤字を活用して「需要の吸収」を柔軟に行う権限があるとし、それを活用することで雇用も物価も安定させられると考えます。

JGが物価安定に寄与するロジック

JGが物価安定につながるとされる理由は、以下の3点に要約されます。

  • 自動安定装置としての機能:景気後退期にはJG雇用が増え、景気拡大期には民間に労働者が流れるため、財政支出と労働需給が自動的に調整される。
  • 名目賃金の基準化:JGの最低賃金が「労働市場の底値」となるため、過度な賃金インフレを防ぎやすくなる。
  • 雇用の安定による消費の安定:失業者が収入を得ることで安定した消費が可能になり、急激な需要変動による物価変動が緩和される。

つまりJGは「インフレが過熱しそうな時にブレーキ」「デフレが起こりそうな時にアクセル」の役割を同時に担える制度なのです。

製品価格と労務費以外のコストの関係

質問者が触れているように、製品価格には労務費だけでなく材料費や間接費も含まれます。これは完全に正しい指摘です。ではJGがこうした「非労働コスト」の抑制にどう影響を与えるのでしょうか?

まず、JGは材料費などの原材料価格に直接介入するものではありません。しかし、以下の点で間接的に安定化に貢献するとされています。

  • 労働者が安定的に収入を得ることで、過度なコスト転嫁(値上げ圧力)が抑制される。
  • 供給能力が一定に維持されることで、需給ギャップによる価格上昇が起きにくい。
  • 景気の変動による過剰在庫や資源の無駄が抑えられ、効率的な価格形成が可能になる。

つまり、JGはあくまで「マクロな需給調整装置」として働くことで、物価の構造的な安定に寄与すると考えるのがポイントです。

実例:アルゼンチンの「プラン・ヘフェス」

アルゼンチンでは2002年に、MMTに影響を受けた「雇用保証制度(Plan Jefes)」が導入されました。この制度では、失業者に対して月150ペソの補助金と、公共事業や福祉分野での就労機会が提供されました。

結果的に、失業率は大きく低下し、同時に物価上昇も穏やかに推移したことから、JGの有効性が一定程度確認されたと評価する学者もいます。

まとめ:JGは万能ではないが、物価安定に寄与する一手段

JGが物価安定に貢献する理由は、労働市場と財政支出を通じたマクロ的な調整効果にあります。ただし、それがすべてのインフレ要因に対応できるわけではなく、材料費や海外要因によるコストプッシュ型インフレなどには限界があります。

したがって、JGは「物価安定の万能薬」ではなく、あくまで全体の経済政策の中の重要なパーツとして理解することが望ましいといえるでしょう。

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