企業が赤字を計上し、配当を減らすような経営状況でも、新卒採用を続けるケースは少なくありません。それは一見矛盾しているように見えるものの、企業戦略としては合理的な側面もあります。この記事では、赤字下での新卒採用の意図と、それに対する株主の意見表明の可能性について解説します。
赤字でも人材投資を止めない理由
企業は短期的な業績だけでなく、中長期的な成長戦略に基づいて経営判断を行っています。新卒採用は、将来の事業継続や体制維持に欠かせない人材確保の一環であり、「人的資本への投資」として重視されています。
とくに年功序列の文化が残る日本企業では、数年後の中堅層や管理職を見据えた人材を計画的に育成していく必要があります。採用を一時的に止めてしまうと、組織構造に歪みが生じ、将来的な人手不足や技能断絶に繋がるおそれがあります。
減配と人材確保のバランス
減配は株主への利益還元を一時的に抑える措置ですが、それと新卒採用は性質の異なる施策です。企業によっては、採用を減らしすぎることで後年の回復局面に対応できなくなるリスクを避けるため、最低限の採用活動を維持する方針を取ります。
たとえば製造業やインフラ系の企業では、熟練労働者の高齢化が進む中で、若手層の確保は長期的な課題とされています。
株主総会で「採用凍結」を提言できるか?
株主総会では、一定の議決権を持つ株主が「動議」を提出することが可能です。したがって「新規採用を凍結すべきだ」と主張すること自体はできます。ただし、採用や人事は「経営判断」の範疇とされることが多く、議決の対象とならない可能性が高い点には注意が必要です。
また、取締役に対する質問や意見表明の機会を使って「赤字下での採用方針」について説明を求めることは、株主の正当な権利として認められています。
人的資本経営と投資家の理解
近年では、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資や人的資本経営の重要性が高まっており、長期的な企業価値向上のために人材確保を重視する姿勢が評価されることも増えています。採用凍結が一時的なコスト削減にはなっても、将来の競争力を削ぐ結果になりかねません。
そのため、企業のIR(投資家向け広報)資料では「採用と人件費の戦略的な位置づけ」が説明されていることが多く、投資家もその意図を踏まえた理解が求められます。
過去の実例:リーマンショック後の採用凍結
2008年のリーマンショック後、多くの企業が新卒採用を一時停止しましたが、その結果「就職氷河期世代」という社会問題を引き起こしました。現在もその影響を受けた労働市場の構造問題が続いており、「採用停止の副作用」は企業だけでなく社会全体に影響を及ぼす例といえます。
まとめ
赤字や減配のなかでも新卒採用を続ける企業には、将来を見据えた戦略的な意図があります。短期的な視点では理解しづらいものの、人的資本への投資は企業の競争力を維持するために不可欠です。
株主として意見を述べることは可能ですが、採用凍結の提言には慎重な視点と、企業全体の戦略とのバランスを踏まえた議論が求められるでしょう。

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