政府系投資ファンドは空売りを行うのか?日米欧・新興国・権威主義国家の違いと運用戦略を解説

資産運用、投資信託、NISA

国家が保有・運用する年金基金やソブリン・ウェルス・ファンド(政府系投資ファンド:SWF)は、膨大な資産を運用することで知られています。では、こうした政府系ファンドはリスクを取った戦略、例えば空売り(ショートポジション)を取ることがあるのでしょうか?この記事では、各国の政府系ファンドの特徴とともに、「空売り」という投資戦略との関係について詳しく解説します。

政府系投資ファンドとは?GPIFやノルウェーGPFなどの事例

政府系ファンドとは、政府や政府関連機関が保有する資産を長期的に運用するためのファンドです。代表的なものに以下があります。

  • 日本:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
  • ノルウェー:GPFG(政府年金基金グローバル)
  • 中国:CIC(中国投資有限責任公司)
  • アブダビ:ADIA(アブダビ投資庁)

これらのファンドは、年金の支払い原資や国家資産の長期的成長を目的に設立されており、その運用方針は国の経済方針や政治体制によって異なります。

基本的に政府系ファンドは「空売り」を行うのか?

空売りとは、保有していない株式などを一時的に借りて売却し、価格が下がった後に買い戻すことで利益を得る手法です。リスク管理やヘッジ目的で使われることもあります。

日本のGPIFのような「年金目的」のファンドは原則として空売りを行いません。GPIFは投資原則で「長期安定運用」「インデックス重視」「受託者責任の遂行」を掲げており、短期的な利益追求を目的とした空売りとは一線を画しています。

一方、ノルウェーGPFGも同様に空売りには慎重で、基本的には長期の現物投資に特化しています。ただし、先物や通貨ヘッジなど、リスク管理目的のデリバティブ活用は行われています。

空売りを行う政府系ファンドも存在する?

中国や中東の一部のSWFは、民間ヘッジファンドなどへの出資を通じて間接的に空売りを行う場合があります。たとえば、中国のCICやシンガポールのGICなどは、株式だけでなくプライベートエクイティ、ヘッジファンド、不動産など幅広いアセットに投資しており、これらのファンド経由で空売りが行われることがあります。

つまり、政府系ファンド自身が直接空売りすることは稀でも、「空売りを戦略の一部とするファンドへ出資する」という形で間接的に関与するケースは十分にあり得るのです。

政治体制による違い:民主主義国と独裁・権威主義国家

民主主義国では、ファンドの運用において透明性・説明責任が求められるため、空売りなどのリスクの高い戦略は基本的に避けられます。国民の年金や資産を守るという観点から、運用の健全性と保守性が重視されます。

一方、権威主義的体制や独裁国家においては、政府の裁量で攻めの投資戦略が採られることもあります。たとえば中東の石油資源を原資とするファンドでは、リターン重視でリスク許容度が高めに設定されている場合があります。

政府系ファンドと空売りの実例:海外の動き

ノルウェーのGPFGは、ヘッジファンドへの出資比率を限定しつつ、環境・社会・ガバナンス(ESG)重視の運用方針を取っています。このため空売りは極めて限定的です。

対照的に、アブダビ投資庁(ADIA)は、より積極的な運用スタイルを採用しており、グローバルなオルタナティブ資産への投資比率が高く、空売りを戦略に含む可能性があります。

まとめ:年金ファンドの空売りは原則なし、ただし例外も存在

多くの政府系投資ファンド、とくに年金目的のファンドは空売りを行いません。長期的な安定運用と国民への説明責任を重視しているためです。

ただし、新興国やリターン重視のファンドの中には、間接的に空売りを活用しているケースもあります。国家の体制、運用の目的、そしてファンドが採用するリスクマネジメント戦略によって、そのスタンスには明確な違いが見られます。

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