国際的な関税撤廃は、経済の効率化や成長を促す一方で、国ごとの分業が進むことで特定国への依存度が高まり、いざという時のリスクが懸念されます。本記事ではそのリスクと対策について、経済安全保障の観点から解説します。
関税撤廃のメリットとその裏にある構造的なリスク
自由貿易の拡大により、企業はコスト削減のために生産拠点を海外に移し、国際的な分業体制が進んできました。この流れは経済効率を高める一方、重要物資や基幹技術の供給において、特定国に依存する構造を生み出しています。
たとえば、半導体や医薬品の原材料において中国やインドに依存している現状は、地政学的リスクが現実化した際に自国経済へ甚大な影響を及ぼす可能性があります。
経済安全保障という新たな政策アプローチ
こうした依存リスクに対応するために、近年注目されているのが「経済安全保障」という概念です。これは経済活動と安全保障を一体で捉え、国家の存立や国民の生活を守るために必要な供給網や技術基盤を戦略的に管理する政策です。
具体的には、重要物資の国内生産体制の強化、特定国への過度な依存を避ける多国間調達の推進、リスクの高い分野へのサプライチェーン再構築支援などが挙げられます。
「戦略的自立」と「開かれた経済」の両立を目指す
完全な自給自足は非現実的ですが、リスクが高い分野に関しては国内や信頼できる同盟国での生産体制を整備する「戦略的自立」が求められています。これは、全てを国内で賄うのではなく、信頼できるパートナー国と共に安定供給体制を構築する考え方です。
EUが「経済的レジリエンス」として取り入れているように、日本でも2022年に経済安全保障推進法が成立し、官民連携による重要物資の安定供給確保が進められています。
現代の関税の役割：単なる保護主義ではない
関税はかつて国内産業保護のために使われてきましたが、現代では単なる「保護主義」から一歩進んで、経済安全保障や環境対策といった政策目的のためのツールとして再定義されつつあります。
たとえば、EUの「カーボン国境調整メカニズム」やアメリカの対中関税は、経済的な覇権争いや地球環境の保護といった背景を持ち、単純な貿易障壁とは異なる文脈で捉えられます。
分業化と安定供給を両立させる道
分業の利点を享受しつつ、リスクにも備えるためには「分散と冗長性のあるサプライチェーン設計」が不可欠です。日本企業もCOVID-19やウクライナ危機を契機に、複数国調達や国内回帰の動きを強めています。
また、重要物資のストック体制や、災害・外交リスク時の代替調達ルートの確保も今後ますます重要性を増します。
まとめ：経済効率と安全保障のバランスを考える時代
自由貿易が進む中での分業化は避けられない流れですが、それに伴うリスクに対して「備え」を持つことが現代経済の要請です。関税を再評価しつつ、経済安全保障の観点から国内外での供給体制の見直しを進めることで、持続可能で安定した経済構造が築かれるでしょう。
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