MMTの主張にみる「金利 − 成長率」関係とその実現可能性

経済、景気

現代貨幣理論(MMT)は、主権通貨を持つ国においては中央銀行が金利をコントロールできるため、「金利 − 成長率(r − g)」を常にマイナスに維持できると主張しています。これが事実であれば、財政赤字や政府債務の持続可能性に対する従来の考え方に根本的な見直しが求められることになります。本記事では、この主張の理論的背景と現実的な可能性を検討します。

MMTが語る「r − g」の意味とは

「r − g」とは、政府債務の利払いに必要な金利(r)と経済の成長率(g)の差を指します。伝統的な財政理論では、r > g の状態が続くと政府債務は膨張し続け、持続不可能になるとされています。一方、MMTは中央銀行がrを操作できることから、常にr < gに設定可能だと主張します。

たとえば、経済成長率が年3%であれば、中央銀行が政策金利を1%に据え置くことでr − g = -2%となり、債務の実質負担は自動的に減少していく計算になります。

中央銀行が金利をコントロールする仕組み

中央銀行は、公開市場操作や政策金利の設定を通じて、市場金利に影響を与えることができます。たとえば、日本銀行は「イールドカーブ・コントロール(YCC)」によって、10年国債利回りを0%前後に誘導しており、これはまさに金利を人為的にコントロールする実例です。

また、FRB(米連邦準備制度)もリーマンショック後のゼロ金利政策を通じて、政策金利を意図的に経済成長率以下に維持しました。このような政策は、MMTが言う「r < g」の実現可能性を裏付ける一つの根拠です。

現実には「r < g」は常に維持できるのか?

理論的には中央銀行がrを調整できるとしても、実際にはインフレ、為替レート、金融市場の安定性など多くの要因が影響します。たとえば、金利を下げ過ぎると通貨の信認が損なわれ、インフレが急上昇するリスクがあります。

実際、トルコではエルドアン大統領の圧力により利下げが続けられた結果、インフレが加速し通貨リラが暴落しました。このようなケースは「r < g」を無理に維持しようとすることのリスクを示しています。

「r < g」で財政赤字は問題にならない?

MMTの考え方では、主権通貨を発行できる国は自国通貨建ての国債を無限に発行でき、インフレが抑制される限り財政赤字も問題ないとされます。ただし、これはあくまでインフレが制御できる場合に限るという前提条件が付きます。

過去においても、日本のように長年にわたり低金利・低成長が続き、事実上r < gが成立している国もありますが、国際的な信認やデフレ圧力という特殊な背景があってこそ実現している状態です。

政策として「r − g」を操作する限界

金融政策の枠組みでrを抑制することは可能ですが、それを中長期的に維持することには限界があります。経済が過熱すれば金利を引き上げなければならず、r > g に転じる可能性も出てきます。

また、債務の返済に依存する高齢化社会では、債務残高を維持しながらr < gを続けることがインフレリスクや国債市場の不安定化を招く恐れもあります。

まとめ

MMTが主張する「主権通貨を持つ国はr − gをマイナスに維持できる」という考えは、理論的には可能ですが、実際にはインフレや市場の信認、為替の安定といった現実の制約があります。短期的にはr < gを維持できるケースも多く見られますが、長期にわたり政策として持続するには慎重なバランスが求められます。

そのため、MMTの主張を参考にしつつも、財政政策や金利政策は多面的に捉える必要があり、単純に「金利が操作できるから債務は問題ない」と結論づけるのは避けるべきでしょう。

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