私たちが日々行う「選択」を理解しようとする中で、経済学では「効用」という概念が発展しました。労働や希少性といった物理的・客観的な要素ではなく、あえて主観的な「効用」が重視されるようになったのはなぜなのでしょうか。本記事では、効用理論が採用されるようになった歴史的経緯と理論的背景をわかりやすく解説します。
古典派経済学では「労働価値説」が主流だった
18世紀~19世紀の古典派経済学では、アダム・スミスやデヴィッド・リカードによって「労働価値説」が主張されていました。これは「商品の価値は、それを生産するために必要な労働量で決まる」という考え方です。
例えば、Aという商品を1時間で作れ、Bは2時間かかるなら、Bのほうが価値が高いという理屈です。この考え方は理論的には整然としていましたが、需要の変化や嗜好の違いを説明しにくいという限界がありました。
「限界革命」と効用概念の誕生
19世紀後半になると、経済学に大きなパラダイムシフトが起きます。いわゆる「限界革命」と呼ばれる動きで、ウィリアム・ジェヴォンズ(イギリス)、カール・メンガー(オーストリア)、レオン・ワルラス(フランス)が、それぞれ独立に「限界効用」という概念を提唱しました。
これは「人々は追加の1単位からどれだけ満足を得るか」で価値を判断する、という発想です。つまり、モノの価値はその希少性や生産労力ではなく、「人がどれだけ欲しいか」によって決まるという主観的価値論への転換です。
なぜ「効用」は経済理論に適しているのか
効用は、人間の選好や意思決定を数量的に捉えるための便利な道具です。効用関数を使えば、複数の選択肢の中から最適なものを合理的に選ぶモデル(最適化問題)を構築できます。
例えば、ある消費者が限られた予算の中で「リンゴとバナナ」をどの比率で買うかという問題も、効用関数と予算制約を使えば、数学的に最適解が導けます。これは希少性や労力ベースの理論では扱いにくい問題です。
効用理論は「主観の経済学」を確立した
効用理論の革新性は、人間の欲望や選好といった主観的・心理的な要素を経済モデルに組み込んだ点にあります。従来の経済学では「人の心」は理論に組み込まれず、価格や労働などの客観的な要素に偏っていました。
しかし、効用理論によって「人は好きなものを選び、満足を得ようとする存在」という前提のもと、消費行動や価格決定、需要曲線の導出などが可能になり、現代のミクロ経済学の基盤となりました。
近年の発展:効用理論の拡張と限界
現代では効用理論も進化を遂げ、「期待効用理論」や「行動経済学」によって、より現実の人間に近い意思決定モデルが模索されています。
たとえば、カーネマンやトヴェルスキーらによって提唱された「プロスペクト理論」は、効用が常に一貫的ではないことを示し、心理バイアスの影響を明らかにしました。このように、効用理論は完成された理論というより、常に発展し続ける枠組みでもあります。
まとめ:効用が経済学で使われるようになった理由
経済学において「効用」が用いられるようになったのは、人間の行動や選択をより柔軟かつ現実的に説明できるからです。労働や希少性といった客観的要素では説明しきれなかった消費者の選好や価格決定のメカニズムが、効用理論によって大きく前進しました。
効用という主観的な尺度を用いることで、経済学は「なぜ人はその選択をしたのか?」という問いに、より深く迫ることが可能になったのです。

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