IS-LM分析はマクロ経済学の基本的なフレームワークとして、財政政策や貨幣政策が経済に与える影響を視覚的に理解するために用いられます。その中でもIS曲線は「財市場の均衡」を表し、総需要の変化に応じてシフトします。では、政府が財政支出を一切行わない状況でも、たとえば輸出が増加した場合にIS曲線が右にシフトすることはあるのでしょうか?この記事では、IS曲線の本質と輸出との関係をわかりやすく解説します。
IS曲線とは何か?──財市場の均衡を示す曲線
IS曲線(Investment-Saving curve)は、利子率と国民所得の関係において、財市場(物の市場)が均衡する点の組み合わせを表したものです。基本的に、「総需要=総供給(Y=C+I+G+NX)」が成立する点がIS曲線の構成要素です。
この中で「G」は政府支出、「NX」は純輸出(輸出-輸入)を示します。つまり、IS曲線に影響を与えるのは政府支出だけでなく、純輸出も含まれるのです。
輸出増加がIS曲線に与える影響
政府が支出を増やさなくても、輸出が増加する=NXが増加すると、総需要が増加します。この結果、国民所得Yも増加し、IS曲線は右シフトします。
たとえば、海外で日本製品の需要が急増したり、為替レートが円安に振れた場合、輸出が拡大します。これにより、日本国内での生産・所得が増加し、財市場における均衡水準も上昇するため、IS曲線は右に移動するのです。
輸出主導型の経済刺激の具体例
実例としては、2000年代初頭のドイツが挙げられます。ドイツは「輸出立国」として国内の財政出動を抑えながら、海外市場への輸出を大きく伸ばすことで経済成長を遂げました。これはIS曲線を右にシフトさせる「外需主導型」のモデルといえます。
また、日本においても、2020年以降の半導体・電子部品の海外需要増加は、国内製造業の生産と雇用を支え、内需が弱い中で経済を底上げする要因となりました。
財政支出と輸出の違い──シフトの質に注目
IS曲線を右にシフトさせる要因として、財政支出と輸出はともに有効ですが、その「質」や「波及経路」には違いがあります。財政支出は国内需要の直接的な刺激策であり、即効性があります。一方、輸出の増加は外部環境に依存しやすく、為替・貿易摩擦・外国の景気などの要因に左右されやすいのが特徴です。
また、輸出増加が一部の産業や地域に集中する傾向があるのに対し、公共投資などの財政支出は比較的全国的に波及する可能性があります。
輸出増でも注意すべき点とは?
輸出が増えてIS曲線が右に動いても、国内全体の経済が安定するとは限りません。たとえば、外需に頼りすぎると世界経済の変動に巻き込まれやすくなります。また、為替レートの変動が企業業績や物価に与える影響も無視できません。
さらに、IS曲線が右シフトして国民所得が増えても、インフレ圧力や金利上昇を招けば、LM曲線との兼ね合いで総合的な効果が薄れる可能性もあります。
まとめ:輸出はIS曲線を動かすが万能ではない
結論として、政府が財政支出を行わなくても、輸出の増加によってIS曲線は右にシフトします。これは、純輸出もまた総需要の一部であるためです。
ただし、その効果は経済全体に均等に波及するとは限らず、持続性や安定性に課題があるため、国内需要とバランスを取りながら経済政策を設計することが重要です。IS-LM分析を通じて、経済のダイナミズムを多角的に捉える視点が求められます。

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