ジョブ・ギャランティー制度は“労働本位制”か?MMTと金本位制の比較から読み解くその本質

経済、景気

現代貨幣理論(MMT)の議論において、ジョブ・ギャランティー(Job Guarantee: JG)制度はしばしば注目される政策提案の一つです。とりわけ、L. Randall Wrayの論文『The Value of Money: A Survey of Heterodox Approaches』では、政府が最低時給を設定することで貨幣価値を支えるという構想が述べられています。本記事では、JG制度が金本位制と類似する「労働本位制」として捉えられるかどうかを、制度設計と理論的背景から詳しく考察していきます。

ジョブ・ギャランティー制度とは何か?

ジョブ・ギャランティー(JG)制度とは、政府が望むすべての人に公共部門の雇用を提供し、失業の最終的受け皿となる制度です。たとえば時給15ドルのJG職を用意することで、不況期には失業者がJGに流入し、好況期にはより高い賃金の民間部門へと移動します。

この仕組みの中核には、「政府が貨幣の雇用力をコントロールする」という考え方があります。すなわち、政府が設定する賃金が、経済における最低水準の価格基準となり、間接的に物価や労働市場を安定させるとされます。

MMTにおける貨幣価値の支え方

MMTでは、貨幣の価値は主に「政府による課税と支出」によって支えられるとされます。つまり、政府が税金の支払い手段として自国通貨を唯一認めることにより、人々はその通貨を入手するために労働し、支出の受け取り手が発生するという構造です。

JG制度は、この通貨価値の支えを労働の名目価格(政府設定賃金)にリンクさせる点で、MMT的貨幣観における補完的制度と位置づけられます。

金本位制と労働本位制の構造的比較

金本位制とは、通貨が一定量の金と交換可能であるという制度です。この体制では、政府の通貨発行量は金保有量に制限され、物価や信用創造のコントロールも金の供給に依存していました。

対して、JG制度における支出額は、政府が設定した時給×労働時間×参加者数で決まり、あくまで労働の提供量に依存します。この意味で、「金に兌換される貨幣」ではなく、「労働に裏打ちされた貨幣」とも見なすことができるでしょう。

つまり、JG制度は“労働本位制”とも言える構造を持ちます。ただし、これは実際に通貨を「労働と交換可能」と法的に定義する制度ではなく、経済運営上の安定装置として設計されている点で、形式的には金本位制とは異なります。

貨幣価値を「労働」で支える制度的意義

JGによる貨幣価値のアンカー機能は、特に不況期において、労働力の需要を強制的に生み出し、失業を非自発的なものから自発的なものへと変えるという意味合いを持ちます。

また、JGの賃金がインフレ調整の「ベースライン」となることで、民間部門の賃金決定にも安定感が生まれ、賃金・物価スパイラルの抑制効果も期待されています。

注意点:金本位制と同一視することの限界

労働本位的な性格を持つとはいえ、JG制度はあくまで現代の信用貨幣体制における政策オプションのひとつであり、貨幣の兌換性を制度化するものではありません。

金本位制は外的資源(貴金属)に依存する制約型の制度でしたが、JGは内的資源(人間の労働力)を活用する拡張型の制度であると言えます。この違いを理解することが、JG制度の意義を正確に捉えるうえで重要です。

まとめ:JG制度は金本位制ではないが、“労働を通じた貨幣の価値安定化”という共通点がある

JG制度を「労働本位制」と捉えることは一定の比喩的妥当性がありますが、制度設計や運用目的は金本位制とは大きく異なります。
MMTにおける貨幣観に基づき、政府の最低賃金設定をアンカーとするJG制度は、通貨の信頼性と経済の安定性を確保するユニークな政策枠組みです。

労働という最も基本的な経済資源を通じて貨幣の意味を再構築するこの制度は、今後のポスト新自由主義的経済政策において、重要な役割を果たす可能性を秘めています。

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