近年、日本からアメリカ向けに輸出される自動車の価格が大きく下落しているという現象が注目されています。この背景には為替の影響やサプライチェーンの調整といった複数の要因がありますが、同時に「移転価格税制」の観点から、この価格の妥当性に疑問を持つ声もあります。この記事では、日米間の自動車取引の構造とともに、移転価格に関する基本的な考え方や税制上の影響をわかりやすく解説します。
輸出価格の下落はなぜ起きるのか?
日本からアメリカへの自動車の輸出価格が下がっている背景には、まず円安の影響があります。為替が1ドル=150円近くまで進行すれば、ドル建てで見た輸出価格は安くなりますが、円換算での収益は保たれるため、企業にとっては必ずしも損ではありません。
加えて、グローバル市場での競争激化、部品コストの上昇、現地ディーラーとの販売価格調整なども、出荷時点での価格設定を押し下げる要因となります。
移転価格税制とは何か?
移転価格税制とは、国際的な取引において、関連企業間の取引価格が不自然に操作されることを防ぎ、各国の課税権を守るための制度です。たとえば、日本のトヨタ本社がアメリカ子会社に安く車を売りすぎると、トヨタ本社の利益が少なくなり、日本での法人税収が減る恐れがあります。
このため、税務当局は「独立企業間価格(Arm’s Length Principle)」を基準に、適正価格が維持されているかをチェックします。
トヨタなどの大企業が移転価格を回避している理由
トヨタのような多国籍企業は、税務リスクを回避するために移転価格ポリシーを非常に厳格に設けています。たとえば、輸出価格の設定にあたっては、第三者にも通用する価格であることを示すための比較データ(Comparable Uncontrolled Price Method)を使うことがあります。
また、アメリカや日本などOECD加盟国は、移転価格に関する情報開示を義務づける「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」に参加しており、国をまたいだ租税回避はますます難しくなっています。
輸出価格が下がっても日本の税収はすぐに減るわけではない
仮に輸出価格が下がっても、日本企業の連結ベースでの利益が適正であれば、日本での課税額も適正に計算されます。つまり、トヨタがアメリカで得た利益も、最終的に本社に戻ってくる形で、日本で法人税が課税される可能性があるのです。
そのため、輸出価格の下落がそのまま日本の税収減少に直結するとは限りません。
アメリカ側の関税と税収の関係
アメリカは日本からの乗用車に対して2.5%の関税を課しています。したがって、輸出価格が下がれば、アメリカの関税収入も減ることになります。よって「日本の税収が減って、アメリカの税収が増える」という単純な構図にはなりません。
ただし、アメリカでの販売価格が高く設定されていれば、販売利益に応じた法人税などがアメリカ国内で課税され、その分はアメリカの税収に貢献する形になります。
まとめ:移転価格は厳密に管理されている
日本からアメリカへの自動車輸出価格が下がっていることは事実ですが、それが自動的に移転価格税制に違反しているとは言えません。トヨタなど大手企業は移転価格ポリシーを適正に運用しており、税務当局も定期的にチェックを行っています。
「輸出価格の下落 = 移転価格問題」とは限らず、各国の税制に沿ったグローバル企業の経済活動として正当に成立している可能性が高いのです。

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