グレートリセットで現金や円はなくなる?「生き残る通貨」を探す前に知っておきたい資産防衛の考え方

経済、景気

「グレートリセットが起きたら円やドルはどうなるのか」「現金を持っていても意味がなくなるのではないか」と不安になる情報を、SNSや動画サイトなどで目にすることがあります。通貨制度や物価が生活に直結する以上、心配になるのは自然ですが、まず確認したいのは「グレートリセット」という言葉が何を意味しているのかです。

世界経済フォーラム(WEF)が2020年に発表した「The Great Reset」は、コロナ禍を契機として、より公正で持続可能かつ強靱な経済・社会システムを構築しようという構想・議論として提示されたものです。[参照:世界経済フォーラム]

少なくとも「ある日を境に世界中の現金が無価値になり、特定の新通貨だけに強制交換される」という出来事が公式に決定されていることを意味する言葉ではありません。資産について考える場合は、こうした極端なシナリオを前提に全財産を動かすより、インフレ、円安、金融危機、災害など現実に起こり得るリスクへ備えるほうが実用的です。

そもそも「グレートリセット」とは何なのか

グレートリセットは、世界経済フォーラムが2020年に打ち出した構想です。新型コロナウイルスによって浮き彫りになった経済・社会上の問題を踏まえ、経済や社会の仕組みをより持続可能でレジリエンスの高いものへ変えていこうという議論でした。

世界経済フォーラム自身の発表では、より公正で持続可能かつレジリエンスのある未来に向けて経済・社会システムの基盤を構築することなどが説明されています。[参照:World Economic Forum]

一方、インターネット上ではこの言葉から派生して、「現金が廃止される」「個人資産が没収される」「世界統一通貨になる」といったさまざまな説があります。しかし、WEFが掲げたグレートリセットという構想そのものと、ネット上で語られている個々の予測や主張は分けて確認する必要があります。

グレートリセットで円や現金が突然無価値になるのか

通貨の価値は固定されたものではありません。日本円でも、インフレが進めば同じ1万円で購入できる商品・サービスは少なくなります。外国通貨との交換価値も為替相場によって毎日変化します。その意味では「現金にも価値変動のリスクがある」という考え方自体は間違いではありません。

しかし、価値が徐々に低下する可能性と「突然ゼロになる」という話はまったく別です。日本国内では円が法定通貨として決済や納税、給与、預貯金など幅広い経済活動の基盤になっています。グレートリセットという名称だけを根拠として、近いうちに日本円が無価値になると判断できる公的根拠はありません。

むしろ日常生活では現金・預貯金には重要な役割があります。家賃、食費、光熱費、医療費、税金など近いうちに必要になるお金まで値動きの大きな資産へ移してしまうと、相場下落時に必要資金を取り崩さなければならなくなる可能性があります。

「生き残る通貨」を一つだけ選ぶ考え方には注意

将来の危機に強い資産として米ドル、スイスフラン、金、ビットコインなどが挙げられることがあります。しかし、どれか一つを「絶対に生き残る通貨」と断定することはできません。

例えば米ドルは世界で広く利用されている主要通貨ですが、為替変動や米国のインフレ・金利などの影響を受けます。日本で生活する人が円をすべてドルへ交換すると、その後円高になった場合には円換算した資産額が減少します。

金は通貨とは異なる実物資産で、通貨や金融システムへの不安が高まった際の分散先として利用されることがありますが、価格は上下します。ビットコインなどの暗号資産も価格変動が非常に大きく、「現金の安全な代替品」と同じように扱うことはできません。

資産 特徴 主なリスク
円の現金・預貯金 日本での支払いに使いやすい インフレによる実質価値低下など
外貨 円だけに偏るリスクを分散できる 為替変動
株式・投資信託 企業や世界経済の成長を取り込める 価格下落・元本割れ
債券 発行体から利子・償還を受ける 金利・信用・価格変動
特定国の通貨ではない実物資産 価格変動・利息を生まない
暗号資産 ブロックチェーン上で取引される資産 大幅な価格変動など

現金を持つことには今でも意味がある

現金や預貯金には「大きく増やす」という役割より、必要なときにすぐ使えるという重要な役割があります。金融庁も資産形成の基本として、預貯金は安全性・流動性が比較的高い一方、収益性は低いという特徴を示しています。[参照:金融庁 資産形成の基本]

例えば毎月の最低生活費が20万円なら、数か月分の生活費を預貯金として確保しておけば、失業、病気、家電や自動車の故障など突然の支出へ対応しやすくなります。すべてを株式や金、暗号資産へ変えてしまうと、必要になったタイミングで価格が大きく下落している可能性があります。

また災害や通信障害などでキャッシュレス決済が一時的に利用しにくくなる場面を考えれば、自宅に一定額の現金を用意しておくことにも意味があります。ただし盗難・火災などのリスクがあるため、多額の現金を自宅だけで保管することにも別のリスクがあります。

インフレが心配なら「現金ゼロ」ではなく資産分散を考える

現金について現実的に考えるべきリスクの一つがインフレです。例えば100万円を持っていても、物価が長期間上昇すれば100万円で購入できるモノやサービスの量は減ります。

だからといって「現金は意味がないので全部投資する」という結論にもなりません。生活費や近い将来使う資金は安全性・流動性を重視し、長期間使う予定のない余裕資金について株式や投資信託などへの分散を検討するという考え方があります。

金融庁も、金融商品には安全性・収益性・流動性のすべてが最高という商品はなく、目的に応じて使い分ける必要があると説明しています。また資産形成では長期・積立・分散という考え方を紹介しています。[参照:金融庁]

政府の動きを見て不安になったときほど一次情報を確認する

制度改正やデジタル化について複数のニュースが同時期に出ると、「政府が急いで何かを進めているのでは」と感じることがあります。しかし、個々の政策が実際に何を目的としているのかを確認せず、複数の出来事を一つのストーリーとして結び付けると判断を誤る可能性があります。

特に「○月に現金が使えなくなる」「銀行預金が没収される」「この資産だけ買えば助かる」といった情報を見た場合には、政府機関、日本銀行、金融庁などの一次情報で同じ内容が公表されているか確認することが重要です。

強い不安を感じているときに、全預金を引き出す、全財産を外貨・金・暗号資産へ交換する、高額な金融商品を一括購入するといった不可逆的な行動を急ぐ必要はありません。「今すぐ行動しなければ資産がゼロになる」という情報ほど、情報源と根拠を冷静に確認したいところです。

危機に備えるなら「何が起きても一つに賭けない」

将来の経済環境を正確に予測することはできません。インフレになる可能性もあれば、景気後退や株価下落、円高・円安、金利変動なども考えられます。だからこそ、一つの未来だけを想定して全財産を一つの資産へ集中させる方法はリスクが高くなります。

例えば生活防衛資金は円の預貯金で確保し、長期的な余裕資金は国内外へ広く分散された投資商品を利用するなど、目的別に資産を分ける方法があります。必要性やリスク許容度によっては外貨や金などを一部組み合わせる考え方もあります。

金融庁は、市場が不安定な局面でも、安定的な資産形成に向けて長期・積立・分散投資の重要性を考慮し、冷静に投資判断することが重要だとしています。[参照:金融庁]

まとめ:グレートリセットを理由に現金を捨てる必要はない

グレートリセットは、世界経済フォーラムがコロナ禍を契機に経済・社会システムをより持続可能で強靱なものへ変える議論として掲げた構想です。「グレートリセットによって日本円が突然無価値になる」「特定の通貨だけが生き残る」と確定しているわけではありません。

現金・預貯金にはインフレによって購買力が低下するリスクがありますが、日々の支払いや緊急時にすぐ使える流動性という大切な役割があります。一方、外貨、株式、債券、金、暗号資産にもそれぞれ異なるリスクがあり、絶対安全な資産はありません。

将来が不安なときほど「何が生き残るか」に全財産を賭けるのではなく、生活防衛資金を確保し、余裕資金について目的・期間・リスク許容度に応じて分散することが現実的です。政府や金融制度について重大な情報を見かけた場合も、SNSだけで判断せず、日本銀行、金融庁、政府機関などの一次情報を確認してから行動することが資産を守る第一歩になります。

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