「日本は人口や経済規模の割に大金持ちが少ないのではないか」という疑問は、Forbesなどの世界長者番付を見ると自然に浮かびます。特に日本と韓国を比較すると、年齢層によっては韓国のビリオネアが日本を上回って見えるデータもあります。
ただし、ビリオネアの人数だけから「日本人は貧しい」「日本では資産を築けない」と結論づけることはできません。超富裕層の人数、国民全体の資産水準、資産格差、企業オーナーの持株比率、株価、為替は、それぞれ別の指標だからです。
日本と韓国の違いを理解するには、10億ドル以上を持つ人だけを見るのではなく、一般層を含む資産分布や両国の企業構造まで一緒に見る必要があります。
そもそもビリオネアとは「10億ドル以上」の資産を持つ人
ForbesのReal-Time Billionairesは、上場株式などの価格変動を反映して富豪の純資産を推計するランキングです。基準となるbillionaireは米ドルで10億ドル以上の純資産を持つ人を意味します。[参照:Forbes Real-Time Billionaires]
10億ドルは為替レートによって円換算額が変わります。例えば1ドル150円なら約1,500億円です。したがって「資産100億円の富裕層」が多数存在しても、Forbesのビリオネアには入りません。
またランキングの人数は固定ではありません。保有する上場企業の株価が上昇すれば10億ドルを超え、下落すればランキングから外れることがあります。ドル建てランキングなので円・ウォンなどの為替変動も影響します。そのため、特定の日に年齢別人数を集計した数字は、その時点のスナップショットとして扱う必要があります。
日本は「超巨大資産家が突出して多い国」ではない
日本は世界有数の経済規模を持つ一方、米国のように数百億ドル、場合によっては1,000億ドルを超える資産を持つ創業者が次々に生まれる国ではありません。その意味では、人口やGDPに対して「突出した超富裕層が非常に多い国」とはいえません。
ビリオネアを大量に生みやすいのは、創業者が大きな株式持分を維持したまま企業の時価総額が世界規模へ急成長するケースです。巨大テクノロジー企業などでは、企業価値が何兆円、何十兆円と膨らむことで創業者の個人資産も急増します。
例えば時価総額10兆円の企業を創業者個人が20%所有していれば、その株式だけで理論上2兆円の資産価値になります。反対に、同じ10兆円企業でも個人筆頭株主がおらず株式が広く分散していれば、その企業が巨大でも「兆円単位の個人資産家」は生まれにくくなります。
韓国は大企業グループとオーナー家の存在感が大きい
日本と韓国を比較するときに無視できないのが企業所有構造です。韓国では財閥と呼ばれる大規模企業グループと創業家・オーナー家の存在感が大きく、OECDも韓国経済におけるbusiness groupsとowner familiesの関係を取り上げています。[参照:OECD Economic Surveys: Korea 2024]
企業価値が特定の創業家の保有株式へ集中していると、企業の株価上昇が個人・一族の純資産へ直接反映されやすくなります。そのため、国の経済規模だけではビリオネア人数を説明できません。
一方、日本にもファーストリテイリング、ソフトバンクグループなど、創業者の持株価値が巨額になった企業があります。Forbesの2026年版「Japan’s 50 Richest」でも、企業創業者やその家族が上位に並びます。[参照:Forbes Japan’s 50 Richest 2026]
日本のほうが人口が多いから富豪も多いはず、とは限らない
人口が多ければ富豪が増える要因にはなりますが、人口とビリオネア人数が比例するわけではありません。ビリオネア誕生には、起業環境、株式市場、産業構造、企業価値、創業者の持株比率、事業承継など多くの要因が関係します。
例えば人口1億人の国に資産1億円の人が100万人いても、10億ドル以上の人が一人もいないことは理論上あり得ます。一方、人口1,000万人でも巨大企業の創業者が何人かいれば、人口当たりのビリオネア数は多くなります。
したがって「人口が約2倍なのにビリオネアが少ない」という比較は興味深いものの、それだけで国民の豊かさを評価することはできません。
一般国民まで含めた資産を見ると別の景色になる
超富裕層だけでなく国民全体を見るために役立つのが、成人1人当たりの平均資産や中央値です。UBSのGlobal Wealth Report 2026によると、2025年の成人1人当たり平均資産は韓国が31万1,260ドル、日本が21万1,846ドルで、平均値では韓国が日本を上回っています。[参照:UBS Global Wealth Report 2026]
一方、同じ2026年版の中央値では日本が13万5,745ドルで世界10位、韓国は10万1,739ドルで18位となっています。つまり平均値では韓国が高いのに、中央値では日本が高いという興味深い結果です。
中央値は資産額の順に人を並べたときの真ん中にいる人の水準です。平均値は一部の非常に資産の多い人に引き上げられやすいため、両方を見ることで資産分布の違いをより立体的に理解できます。
| 2025年の成人1人当たり資産 | 日本 | 韓国 |
|---|---|---|
| 平均資産 | 211,846ドル | 311,260ドル |
| 中央値 | 135,745ドル | 101,739ドル |
この数字からも「韓国にはビリオネアが多いように見える=韓国人全員が日本人より資産を持っている」と単純化できないことが分かります。
日本にもドル建てミリオネアは200万人以上いる
「ビリオネアが少ない」という話と「富裕層そのものが少ない」という話も分ける必要があります。UBSの2026年版Global Wealth Reportでは、日本は米ドル換算で100万ドル以上の資産を持つミリオネアが200万人を超える国の一つとして挙げられています。
つまり日本は、世界トップ級のビリオネアが人口比で突出して多い国ではない一方、一定以上の資産を持つ層まで含めると依然として巨大な富裕層市場を持っています。
「10億ドル以上の人数」と「100万ドル以上の人数」では、測っている富の階層がまったく違います。日本の資産構造を評価するなら、ビリオネアランキングだけを見るのは不十分です。
日本と韓国の平均資産差には近年の資産価格や為替も関係する
UBSによると、韓国では2020年以降の実質的な成人1人当たり平均資産の伸びが、調査対象市場の中でも特に大きく、2025年までに50%を超える増加となっています。つまり現在の日韓差は、長期間固定されたものではなく、近年の資産価格の動きによっても形成されています。
また国際比較は米ドルへ換算されることが多いため、為替の影響を受けます。日本国内で同じ1億円の資産を持っていても、1ドル100円なら100万ドルですが、1ドル150円なら約66.7万ドルです。円安になるだけでドル建て資産額は大幅に小さく見えます。
Forbesの10億ドルという基準についても同じです。円建て資産が変わらなくても円安になればドル換算資産は減るため、日本人がランキング入りするハードルは円換算では高くなります。
相続税だけで日韓の差を説明するのも難しい
「日本は相続税が高いから大富豪が少ない」という説明も見かけます。確かに日本の相続税には高い限界税率がありますが、これだけで韓国との差を説明するのは難しいでしょう。
OECDの相続課税比較では韓国にも高率の相続税があり、子への相続について一定水準を超えると最高50%の税率が適用される制度が紹介されています。OECDの韓国経済調査でも、韓国の相続税率はOECD内で非常に高い水準であるとされています。[参照:OECD Inheritance Taxation in OECD Countries]
したがって、ビリオネア人数の違いを税制一つへ還元するのではなく、創業者株主の持分、企業の時価総額、新産業の成長、資産価格、為替などを合わせて見るほうが適切です。
「大富豪が少ないこと」は悲惨なのか
これは価値判断を含むため、ビリオネア人数だけでは答えられません。大富豪が多いことは、世界規模の企業を生み出す起業家や投資家が多い結果である場合があり、イノベーションや企業成長という観点では重要な指標になり得ます。
一方で、大富豪が多い国が必ず国民全体にとって豊かな国とは限りません。極端な例として、少数の人へ資産が集中すれば平均資産は非常に高くなりますが、中央値は低いままということも起こります。
国民生活という観点なら、ビリオネア人数だけではなく、中央値の資産、実質所得、住宅費、社会保障、可処分所得などを見る必要があります。起業・産業競争力を評価したいなら、新規上場企業、スタートアップ、企業時価総額、生産性など別の指標を組み合わせる必要があります。
まとめ:日本は超富裕層が突出して多い国ではないが「金持ちが少ない国」とも言い切れない
Forbesのビリオネアランキングを見る限り、日本が人口や経済規模に対して10億ドル以上の超巨大資産家を突出して多く生み出している国ではない、という問題意識には一定の根拠があります。韓国との年齢別比較も、両国の企業所有構造や資産形成の違いを考えるきっかけになるデータです。
しかし、ビリオネア人数だけから「日本は大金持ちが少なく悲惨な国」と結論づけるのは適切ではありません。2026年のUBS統計では平均資産は韓国が日本を上回る一方、成人1人当たり資産の中央値では日本が韓国を上回っています。また日本には200万人を超えるドル建てミリオネアが存在すると推計されています。
日韓を比較するなら「10億ドル以上の人が何人いるか」だけではなく、平均資産と中央値、100万ドル以上の富裕層人口、企業の所有構造、創業者の持株比率、株価、為替まで見ることが重要です。そうすることで、日本は「超巨大資産家が突出して多い国ではない一方、中間層を含めた資産分布では別の特徴を持つ国」であることが見えてきます。
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