「日本ではお金持ちをあまり見かけない」と感じることがあります。しかし、実際の資産統計を見ると、日本に富裕層がほとんどいないという認識は正確ではありません。むしろ日本には相当数の富裕層が存在しており、世界的に見ても富裕層の人数が多い国の一つです。
野村総合研究所(NRI)の推計では、2023年時点で純金融資産1億円以上を保有する「富裕層・超富裕層」は合計約165万世帯、保有する純金融資産は合計約469兆円に達しています。さらにUBSの世界の資産調査でも、日本には多数の米ドル建てミリオネアが存在することが確認されています。[参照] 野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層の推計」
つまり、ポイントは「日本に金持ちが少ないのか」だけではありません。実際には相当数いるのに、日常生活では金持ちだと分かりにくいという側面も考える必要があります。
結論|日本に金持ちが極端に少ないわけではない
まず「金持ち」を何円以上の資産を持つ人と定義するかによって答えは変わります。年収1000万円を金持ちと考える人もいれば、金融資産1億円以上、不動産を含む総資産数億円以上をイメージする人もいます。
NRIでは、世帯の金融資産から負債を差し引いた「純金融資産保有額」を基準として、1億円以上5億円未満を「富裕層」、5億円以上を「超富裕層」と分類しています。2023年推計では富裕層が153.5万世帯、超富裕層が11.8万世帯で、合計すると165.3万世帯です。
しかも、この数字は2005年以降のNRI推計で最多でした。2021年の148.5万世帯から約11%増加しています。「日本から富裕層がいなくなっている」という単純な状況ではないことが分かります。
世界的に見ても日本にはかなりの数の富裕層がいる
世界規模で比較しても、日本は決して「富裕層がほとんどいない国」ではありません。UBSの「Global Wealth Report 2025」では、100万米ドル以上の資産を持つ人について、日本は約273万人と推計されていました。米国、中国、フランスに続く大きな規模です。[参照] UBS Global Wealth Report
さらに2026年版のUBS Global Wealth Reportでは、日本を含む複数の国で米ドルミリオネアが200万人を超えているとされています。日本の成人1人当たり資産は平均21万1,846米ドル、中央値13万5,745米ドルと推計され、中央値では調査対象国・地域の中でも比較的上位に位置しています。
したがって「日本人はみんな貧しく、富裕層がほとんど存在しない」というイメージは統計とは一致しません。ただし、米国のように桁違いの資産を持つ人が目立つ社会と比較すると、富裕層の見え方は大きく異なります。
なぜ日本では金持ちを「見かけない」と感じるのか
富裕層の人数と「街を歩いていて金持ちに見える人がいるか」は別問題です。資産は銀行口座、証券口座、投資信託、株式などに存在しているだけなら、外見から判断することはできません。
例えば純金融資産2億円を持つ60代の夫婦が、一般的な住宅に住み、国産車に乗り、近所のスーパーで買い物をしていたとしても、周囲からは普通の世帯にしか見えないでしょう。一方、年収が高くても高級車や住宅のローン負担が大きければ、純資産では富裕層に入らないこともあります。
「お金持ちに見えること」と「実際に資産を持っていること」は一致しません。この違いが、日本の富裕層を考えるうえで重要です。
日本の富裕層には「いつの間にか富裕層」もいる
NRIは近年の特徴として「いつの間にか富裕層」という表現を挙げています。もともと富裕層だったわけではない会社員などが、NISAや確定拠出年金を含む長期の資産運用を続け、株価上昇などによって金融資産が増加し、結果的に富裕層へ入るケースです。
このタイプは特に「金持ちに見えにくい」富裕層といえます。事業で大成功して突然巨額の所得を得た人とは異なり、会社員として何十年も働きながら金融資産を形成しているため、生活スタイルが急激に変わるとは限らないからです。
例えば給与から毎月一定額を株式や投資信託へ回し、退職金や相続した資産も加わって60代で純金融資産1億円を超えたとしても、それまでと同じ家に住み続けることは十分考えられます。こうした世帯を街中で見分けることはほぼ不可能です。
資産1億円でも毎日ぜいたくできるとは限らない
「1億円」と聞くと、一生豪遊できるようなイメージを持つかもしれません。しかし資産としての1億円と、自由に毎年使える所得1億円はまったく違います。
例えば65歳で1億円を保有していても、今後30年以上の生活費、医療・介護費、住宅修繕費などをその資産から賄う予定なら、年間1000万円を浪費するような生活は合理的ではありません。資産を維持しながら暮らす人ほど、支出を管理することがあります。
またNRIの「純金融資産」は、預貯金、株式、債券、投資信託などの金融資産から負債を差し引いて計算します。普段の財布に1億円相当の現金が入っているという意味ではありません。
「高級車に乗っていない=金持ちではない」とは限らない
街で富裕層を探そうとすると、高級車、ブランド品、大豪邸、高級時計など「見える消費」に目が向きます。しかし、それらは資産額を直接示すものではありません。
1000万円の車を現金で購入しても十分な金融資産が残る人もいれば、高収入を背景にローンで購入している人もいます。外から見えるのは消費額であって、預金残高、株式、不動産、借入額まで分かるわけではありません。
そのため「日本の街にはスーパーカーが少ないから富裕層も少ない」といった判断はできません。富裕層の多さを比較するなら、街で見かける高級品ではなく資産統計を見る必要があります。
一方で日本が「世界一の金持ち国家」というわけでもない
日本に多数の富裕層がいるからといって、日本が現在も世界で突出して裕福な国という意味でもありません。特に米国との差は大きく、UBSの2026年版調査では米国の成人1人当たり平均資産は約69.6万米ドル、日本は約21.2万米ドルでした。
また同じ「ミリオネア」でも資産規模には大きな差があります。100万ドルを少し超える人と、100億ドル規模の資産を持つ世界的企業の創業者を同じ「金持ち」とまとめてしまうと、実態が見えなくなります。
米国では巨大テクノロジー企業などの創業者が数兆円から数十兆円規模の資産を保有することがあり、こうした超巨大資産家がニュースやSNSで目立ちます。日本にも大資産家はいますが、世界最上位層の資産規模や人数を比べると米国とはかなり違います。
平均資産だけを見ると実感とズレる理由
「日本人の平均資産は○千万円」という統計を見て、「自分の周囲にはそんな人はいない」と感じることもあります。ここでは平均値と中央値の違いが重要です。
例えば5人の資産が100万円、200万円、300万円、400万円、9000万円なら、平均は2000万円になります。しかし5人の中央にいる人の資産は300万円です。少数の大資産家がいるだけで平均値は大きく上昇します。
そのため一般的な生活水準を考えるときには平均だけでなく中央値も確認する必要があります。UBSの2026年版調査でも、日本の成人1人当たり資産は平均約21.2万米ドルに対して中央値約13.6万米ドルとなっており、両者には差があります。
日本では資産が高齢層に蓄積されやすいことも「見えにくさ」に関係する
資産形成には時間がかかるため、一般に若者より中高年のほうが金融資産を蓄積しやすくなります。長年の預貯金、株式投資、退職金、相続などが積み上がるからです。
この点も「SNSや繁華街でお金持ちを見かけない」という感覚とのズレにつながります。資産1億円を持つ高齢世帯が、若者向けの高級ブランドを大量購入したり、その生活をSNSで公開したりするとは限りません。
逆にSNSでは海外旅行、高級ホテル、高級車など消費の大きい生活ほど目立ちやすいため、実際の資産額とは異なる「金持ちのイメージ」が作られやすい面があります。
所得格差と資産格差は同じものではない
もう一つ重要なのが、「高所得者」と「資産家」を区別することです。所得とは一定期間に得た給与や事業所得などであり、資産はそれまでに蓄積した財産です。
例えば年収2000万円でも支出や負債が大きければ純資産はそれほど多くない場合があります。一方、現在の年収が500万円でも、過去に取得した株式や相続財産などによって数億円の純資産を持つ人は存在します。
OECDは所得格差を可処分所得などをもとにジニ係数で測定しています。日本の所得格差について議論するときも、富裕層の「資産」の話とは区別する必要があります。[参照] OECD Economic Surveys: Japan 2026
日本人の金融資産はどこにあるのか
日本の家計が保有する金融資産については、日本銀行の「資金循環統計」で確認できます。この統計では、家計部門が保有する現金・預金、債務証券、株式、投資信託、保険・年金などが集計されています。[参照] 日本銀行「資金循環」
ここで注意したいのは、家計部門全体の金融資産が巨額だからといって、全員が均等に持っているわけではないことです。資産の保有額には世帯ごとの差があり、年齢、所得、相続、投資経験などによって大きく異なります。
つまり「日本全体では資産が多い」と「普通の人が金持ちだと実感する」は同義ではありません。マクロ統計と個人の生活実感には大きな距離があるのです。
日本の金持ちが少なく見える主な理由
ここまでの内容を整理すると、日本で富裕層が目立ちにくい理由は一つではありません。
- 金融資産は外見から判断できない
- 資産1億円以上でも一般的な生活を続ける人がいる
- 長期投資によって徐々に資産を形成した富裕層もいる
- 資産を持つことと高額消費することは別である
- 高所得と高資産も別の概念である
- 世界的な超大富豪と比較すると日本の富裕層が目立ちにくい
- 平均値と中央値では見える景色が違う
特に「金持ちなら高級車に乗り、大豪邸に住み、ブランド品を身につけているはず」という前提を置くと、実際より富裕層が少なく見えてしまいます。
まとめ|日本には富裕層が少ないというより「見えにくい」面がある
日本にお金持ちがほとんどいないというのは、データ上は正確ではありません。NRIの2023年推計では、純金融資産1億円以上の富裕層・超富裕層は約165万世帯、その純金融資産総額は約469兆円に達しています。
国際比較でも日本には多数の米ドルミリオネアがおり、世界的に見ても富裕層人口の大きな国の一つです。一方、米国などと比べると桁違いの超巨大資産家が目立ちにくく、経済成長や所得、資産価格の推移も異なるため、「海外のほうがお金持ちが多そうだ」という印象が生まれることがあります。
重要なのは、「金持ちが少ない」と「金持ちを見かけない」は別の話だという点です。金融資産は外から見えず、富裕層だからといって派手な消費をするとは限りません。普通の住宅に住み、普通の服を着て、一般的な車に乗っている人が億単位の金融資産を持っていることも十分あり得ます。
日本の富裕層を考えるときは、高級車やブランド品を持つ人の数だけで判断するのではなく、「所得」「純金融資産」「総資産」「負債」を分け、統計に基づいて見ることが大切です。そうすると、日本には想像以上に多くの富裕層が存在する一方、その豊かさが必ずしも街中で分かりやすく可視化されていないことが見えてきます。
※富裕層の定義は調査によって異なります。NRIの数値は2023年の純金融資産を基準とした世帯推計、UBSの数値は同社の世界資産調査に基づくものであり、両者を単純比較することはできません。
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