近年、上場企業における「株主還元」の強化が叫ばれる一方で、従業員の待遇やモチベーションとのバランスに疑問を感じる声も上がっています。「従業員が不満なら、自社株を買えばよい」といった意見もありますが、実際にはそれほど単純な話ではありません。この記事では、従業員が自社株購入に慎重になる理由と、その背景にある制度的・心理的要因を探ります。
自社株購入のメリットと一般的な制度
多くの上場企業では「従業員持株会」という制度があり、給与天引きで自社株を積み立てる仕組みが整備されています。この制度を利用すると、奨励金(企業が一定割合上乗せ)が支給されたり、長期的な資産形成にもつながるなどのメリットがあります。
たとえば、大手企業では「月1万円分の拠出に対して10%の奨励金」が付くなどのインセンティブが一般的です。
それでも自社株を購入しない従業員がいる理由
一方で、多くの従業員がこの制度を利用していないのも事実です。その主な理由には、リスク分散の原則があります。自社から給与をもらい、さらに資産運用でも同じ企業に依存するのは「集中リスクが高い」とされるからです。
実際、万が一会社が経営危機に陥れば、給与も資産も同時に失う可能性があるため、慎重な判断が求められるのです。
株主と従業員は立場が異なる
株主は企業の成長や利益配分(配当)を重視する立場であるのに対し、従業員は安定的な雇用と報酬を重視する立場です。この2者は利害が必ずしも一致せず、ときには対立することもあります。
例えば、利益を配当に回すことで設備投資や人材教育に使う予算が減少すれば、従業員にはマイナスに働くことがあります。そうした構図の中で、株主還元ばかりが優先されると、従業員のモチベーションが低下する要因になりかねません。
「リスクを取れ」と言われても現実は厳しい
「リスクを取りたくないなら文句を言うな」という意見は、表面的には筋が通っているように見えます。しかし、現実には給与の多くが生活費に消える家庭も多く、そもそも投資に回せる余剰資金がないという声も少なくありません。
また、過去に不祥事や株価暴落を経験した企業では「会社を信じて投資したのに裏切られた」といった体験がトラウマになり、従業員が自社株を避けるようになる例もあります。
従業員と株主、どちらも大切なステークホルダー
本来、企業経営は株主と従業員を「対立する存在」としてではなく、共に企業価値を高めるパートナーとして捉えるべきです。従業員にとっても納得感のある報酬制度や福利厚生、株主に対しても透明性のある経営が求められます。
最近では「人的資本経営」の観点から、従業員エンゲージメントと業績が相関するという研究も増えてきており、従業員還元は単なる「コスト」ではなく、長期的に見て企業価値を高める「投資」として認識されつつあります。
まとめ:従業員の行動には背景がある
従業員が自社株を購入しないのは単なる「覚悟不足」ではありません。リスク管理・資金事情・過去の経験・企業への信頼感など、さまざまな理由が複合的に影響しています。
株主と従業員が相互に理解し合い、長期的な企業価値の向上を目指すためには、一方的な意見ではなく、双方の立場に立ったバランスのとれた対話が必要です。

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