経済学では、「有効需要の原理」という概念が特にケインズ経済学で重視されていますが、これが資産市場にどのように適用されるのかについては混乱を招きやすいテーマです。「資産市場では有効需要の原理に基づいて需要が供給を決定する」という記述は正しいのでしょうか?この記事ではその論点を丁寧に解説します。
有効需要の原理とは何か?
有効需要の原理(Principle of Effective Demand)は、ジョン・メイナード・ケインズによって提唱された概念です。これは「総供給ではなく、総需要(=有効需要)が経済全体の産出量と雇用を決定する」という考え方であり、特に不況期において重要視されます。
つまり、企業は売れる見込みがある(=有効な需要がある)場合にのみ生産を行うのであり、生産されたものが必ず消費されるとは限らないという、セイの法則への反論でもあります。
資産市場とは何か?
資産市場とは、株式、債券、不動産、金、暗号資産などの資産が取引される市場を指します。ここでは商品のように実物を消費するわけではなく、資産価値や将来の利益を見込んで取引がなされます。
特徴的なのは、価格調整が非常に速やかに行われる点と、投資家の期待・心理が価格形成に強く影響するという点です。
資産市場に有効需要の原理は適用されるのか?
結論から言えば、資産市場には、有効需要の原理はそのままでは適用されません。なぜなら、有効需要の原理は「生産物市場=財市場」における雇用と産出量の決定メカニズムを説明するためのものであり、資産市場の供給(例:株式の発行量や土地の面積)は短期的には一定だからです。
たとえば株式市場であれば、取引される株式数は基本的に固定されており、需要が変化すれば価格が変動するだけで、供給量が変わるわけではありません。よって、「需要が供給を決定する」という仕組みではなく、「価格が需要と供給を調整する」市場メカニズムが働いています。
なぜ混同が起こるのか?
この混乱は「ケインズ理論がすべての市場に同じように適用される」と誤解されがちなことに起因します。確かにケインズは貨幣市場や資産選好理論にも触れていますが、資産市場では期待や心理的要因の役割が大きく、有効需要によって供給が動くという財市場的な構造とは異なります。
たとえば、投資家が株を買いたいと思っても、売り手が現れなければ取引は成立せず、価格が変動するだけです。これが資産市場の基本的な特性です。
具体例:株式市場と需要・供給
ある銘柄の株価が急騰しているとしましょう。このときの「需要増加」は確かに観測されますが、それに応じて企業がその銘柄の株を即時発行して供給量を増やすわけではありません。既存の発行株式数は変わらず、価格上昇という形で均衡が図られるのです。
一方で、商品の市場(たとえばリンゴの市場)では、「リンゴの需要が急増すれば、農家は翌年の生産量を増やす」といった供給側の調整が現実的に起こります。この違いが、有効需要の原理が資産市場にそのまま適用されない理由です。
まとめ:資産市場では価格が均衡をもたらす
「資産市場では有効需要の原理に基づいて需要が供給を決定する」という表現は、厳密には正しくありません。資産市場においては、供給は短期的に固定されていることが多く、価格の変動が需要と供給の調整役を果たします。有効需要の原理はあくまで財市場における概念であり、資産市場には異なるメカニズムが働いているのです。
資産市場と財市場では、経済理論の適用の仕方に違いがあることを理解することで、より的確な経済分析が可能になります。

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