MMTと物価水準の基準:現代日本では何が「アンカー」になっているのか?

経済、景気

近年、MMT(現代貨幣理論)という新しい経済理論に注目が集まっています。その中で特に注目されるのが、「政府の支出が物価水準を決定する」という考え方です。では、MMTが提唱するようなジョブ・ギャランティ制度(政府による雇用保証)が存在しない現在の日本では、一体何が物価の基準、すなわち「アンカー」となっているのでしょうか?

MMTにおける「アンカー」とは何か?

MMTでは、政府の支出、特に政府が労働に支払う金額が「通貨の価値」を定める基準であると考えられています。たとえば、政府が時給1,000円で雇用を保証する場合、その1時間の労働に支払う対価が経済全体の物価の「底」として機能するというわけです。

この制度は「ジョブ・ギャランティ(Job Guarantee)」と呼ばれ、政府が雇用を創出することで完全雇用を実現しつつ、物価の安定化を図ることを目的としています。

現在の日本にはジョブ・ギャランティは存在しない

残念ながら、日本にはMMTが想定するような政府による雇用保証制度は存在していません。したがって、「政府の支出が通貨価値のアンカーになる」という構造は成立していないのが現状です。

それでは今の日本では、物価を安定させる基準はどのように機能しているのでしょうか?次の章で見ていきましょう。

日本における事実上の「物価のアンカー」

MMT的な意味では明確なアンカーがない日本においても、実質的に物価水準の目安となる存在はいくつかあります。代表的なものを以下に挙げます。

  • 最低賃金:全国的に決定される労働の最低対価であり、労働市場の下限価格として機能
  • 公務員の給与水準:行政サービスの基礎となる労働コストの基準
  • 医療・介護報酬:診療報酬や介護報酬は国によって決められ、関連サービス価格の基準に
  • 公共工事の単価:インフラ投資にかかる労務費や資材費が波及的に民間価格に影響

これらは政府が関与しているものの、MMTが想定するような直接的な価格設定ではなく、市場との折衝や専門家会議などを経て間接的に決定されているのが特徴です。

中央銀行の金融政策によるインフレターゲットも重要

政府支出に代わって現代日本の物価水準に影響しているのが、日本銀行(中央銀行)の金融政策です。インフレターゲット政策により、日銀は「2%の物価上昇率」を目標として政策金利や資産購入を調整しています。

MMTと違い、現代の中央銀行制度では「金利」が政策手段とされ、「雇用価格」ではない点が大きな違いです。

制度が違えば「アンカー」も変わる

MMTの理論では、通貨の価値の「アンカー」は政府が労働に対して支払う金額とされています。一方、現在の日本では明確な価格アンカーは存在せず、市場価格の調整、最低賃金、公的報酬単価、そして金融政策が複合的に物価水準を支えています。

今後、もしジョブ・ギャランティのような制度が導入されれば、その金額が新たな基準として機能しうるでしょう。

まとめ:今の日本では「複数の要素」が物価水準を支えている

・MMTが提唱する雇用保証制度は日本には存在しない。
・現在の物価水準の基準は、最低賃金や公務員給与、診療報酬、公的工事単価などが関与している。
・日銀の金融政策も物価安定に大きく影響している。
・MMTの考え方を理解することで、今の制度との違いや課題が浮き彫りになる。

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