上場企業では「株主ばかり優遇して従業員に還元しない」という声が出る一方で、実際には従業員持株会という有利な制度が用意されているケースも少なくありません。
たとえば、毎月1万円積み立てると会社がさらに1万円補助し、実質2万円分の自社株を取得できる制度は非常に魅力的に見えます。
それにもかかわらず、従業員持株会への加入率がそれほど高くない企業もあります。この記事では、その背景や理由について、投資・労働・リスク管理の観点から整理して解説します。
従業員持株会とはどんな制度か
従業員持株会とは、社員が給与天引きなどで自社株を積み立て購入する制度です。
多くの企業では「奨励金」と呼ばれる補助があり、会社側が一定割合を上乗せします。
たとえば、毎月1万円積み立てに対し50%補助なら1万5000円分、100%補助なら2万円分の株を購入できるため、制度だけ見ると非常に有利です。
| 積立額 | 会社補助 | 購入できる株式額 |
|---|---|---|
| 1万円 | 5000円 | 1万5000円分 |
| 1万円 | 1万円 | 2万円分 |
一般投資家には存在しない優遇制度なので、「なぜ加入しないのか」と疑問を持つ人も多いでしょう。
加入率が伸びない最大の理由は“集中リスク”
従業員持株会に慎重な人が多い最大の理由は、自分の給与も資産も同じ会社に依存してしまう点です。
会社の業績が悪化すると、次のような問題が同時に発生する可能性があります。
- 給与や賞与が減る
- リストラ対象になる
- 株価が下落する
つまり、勤務先への依存度が高すぎる状態になります。
「仕事」と「資産」を同じ会社に集中させることを避けたいという考えは、投資の世界では比較的一般的です。
特にリーマンショックや大型倒産を見た世代ほど、このリスクを強く意識しています。
制度が有利でも現金の自由度を重視する人は多い
持株会は給与天引きで積み立てるケースが多く、一度始めると自由に使えるお金が減ります。
若手社員や子育て世代では、投資よりも生活費や住宅費を優先したい人も少なくありません。
また、最近ではNISAやインデックス投資が普及し、「自社株だけに偏るより全世界株の方が安心」と考える人も増えています。
つまり、「制度が悪いから加入しない」のではなく、資産形成の優先順位が変わっている面もあります。
会社への不信感が加入率に影響することもある
社員が「株主ばかり優遇されている」と感じる背景には、賃上げ停滞や人員削減への不満もあります。
その状態で「自社株を買ってください」と言われても、心理的に抵抗を持つ人はいます。
特に以下のような会社では、持株会への警戒感が強くなりやすいです。
- 長時間労働が常態化している
- 賃金が伸びない
- 業績連動で賞与が大きく変動する
- 経営陣への不信感がある
制度自体は有利でも、「会社の将来を信用できるか」が加入率に大きく影響します。
実際には加入している人も多いが“少額運用”が中心
一方で、持株会を全く利用しない人ばかりではありません。
「会社補助がある範囲だけ活用する」という使い方をしている社員も多いです。
たとえば、月5000円〜1万円程度だけ積み立て、補助分を受け取りつつ過度な集中投資は避ける方法です。
これは福利厚生の一部として合理的に活用する考え方とも言えます。
つまり、加入するか・しないかの二択ではなく、「どこまで依存するか」を調整している人が多いのです。
株主還元と従業員還元は対立だけではない
「株主還元=従業員軽視」という単純な話ではありません。
企業は株価を維持し資金調達力を高める必要があり、配当や自社株買いを重視する理由もあります。
一方で、従業員への賃上げや福利厚生も長期的には企業価値向上につながります。
近年は人的資本経営という考え方も広がり、社員還元を重視する企業も増えています。
ただし、社員側から見ると「配当は増えているのに給与は横ばい」と感じるケースもあり、その温度差が不満につながりやすいのです。
まとめ
従業員持株会は、会社補助がある点で一般投資家より有利な制度です。
しかし、給与と資産を同じ会社に集中させるリスクや、現金の自由度、会社への信頼感などを理由に、加入を慎重に考える社員も少なくありません。
そのため、「制度が得なのに加入しない」のではなく、「得でもリスク分散を優先している」という見方をすると理解しやすくなります。
持株会は万能ではありませんが、補助の範囲だけ活用するなど、自分なりのバランスで利用している人も多い制度と言えるでしょう。
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