食品、エネルギー、原材料、物流費、人件費などの上昇が続くと、「物価が高くなったことで倒産や廃業も増えているのでは?」と感じることがあります。実際、近年の日本では企業の倒産だけでなく、休廃業・解散も高い水準になっています。
ただし、倒産や廃業が増えている理由を「物価高だけ」と考えるのは正確ではありません。原材料高やエネルギー価格の上昇に加え、人件費の上昇、人手不足、円安、借入金の返済負担、金利上昇、経営者の高齢化、後継者不足などが複合的に影響しています。
特に中小企業では、仕入価格が上がっても販売価格へ十分に転嫁できなければ利益が圧迫されます。売上が同じでも会社に残るお金が減ってしまうため、物価高が経営悪化の引き金になることがあります。
実際に倒産・休廃業は増えている
東京商工リサーチによると、2025年の企業倒産は1万300社で前年比2.9%増となり、2年連続で1万社を超えました。また、休廃業・解散は6万7,210社で前年比7.2%増となり、3年連続で過去最多を更新しています。[参照:東京商工リサーチ]
さらに普通法人に対象を絞った東京商工リサーチの調査では、2025年に倒産または休廃業・解散によって市場から退出した法人は6万5,858社で、前年比6.8%増でした。退出率も2.17%となり、調査対象期間で最高を更新しています。[参照:東京商工リサーチ 2025年退出法人調査]
したがって「最近、会社が潰れたり店を閉めたりするケースが増えている」という感覚には、統計的な裏付けがあります。ただし「倒産」と「休廃業・解散」は意味が異なるため、分けて考える必要があります。
物価高はなぜ企業経営を苦しくするのか
企業にとっての物価高は、消費者がスーパーで商品を高く感じる問題だけではありません。原材料、商品仕入れ、電気・ガス、燃料、物流、包装資材など、事業を行うためのさまざまなコストが上昇します。
例えば100円で仕入れた商品を150円で販売していた店で、仕入価格が130円になったとします。販売価格を150円のままにすれば、単純化すると50円あった粗利益が20円まで減少します。
そこで販売価格を180円に上げられれば利益を確保できますが、競合店との価格競争や顧客離れを心配して値上げできない企業もあります。この「コストは上がるのに販売価格へ十分転嫁できない」状態が続くと、売上があっても利益と現金が減っていきます。
物価高だけでなく人手不足と人件費上昇も重なっている
現在の中小企業を取り巻く問題は、原材料価格だけではありません。人手不足への対応として賃金を上げなければ採用・定着が難しい企業も多く、人件費も経営上の大きな負担になっています。
中小企業庁も中小企業を取り巻く経営環境について「物価高、人手不足等の厳しい経営環境」と位置付け、価格転嫁や資金繰り、省力化投資などへの支援策を実施しています。[参照:中小企業庁 中小企業白書]
例えば飲食店なら食材費、光熱費、人件費のすべてが上昇する可能性があります。運送会社なら燃料費と人件費、製造業なら原材料・電力・物流・人件費というように、複数のコスト上昇が同時に発生する点が現在の難しさです。
「黒字なのに廃業」というケースもある
倒産と廃業は同じではありません。一般に倒産は債務の支払いが困難になるなど事業継続ができなくなった状態を指しますが、休廃業・解散には、まだ一定の資産や支払い能力があるうちに経営者自身が事業を終了するケースも含まれます。
東京商工リサーチによると、2025年の休廃業・解散企業は6万7,210件と過去最多となり、代表者が60代以上の割合は90.6%に達しました。一方、休廃業企業の赤字企業率は47.2%だったため、すべてが赤字企業だったわけではありません。[参照:東京商工リサーチ 2025年休廃業・解散企業調査]
つまり「物価高で赤字になったから廃業」というケースだけでなく、「経営者が高齢になった」「後継者がいない」「今後さらに経営が厳しくなる前に店を閉める」といった理由もあります。
コロナ禍からの借金と金利も無視できない
近年の企業経営を考えるうえでは、コロナ禍の影響も残っています。当時は売上が急減した企業を支えるため、さまざまな資金繰り支援が行われました。その後、経済活動が正常化しても、借入金そのものがなくなったわけではありません。
売上が回復していても、原材料費や人件費が上昇して利益が少なくなったところへ借入金の返済が重なると、資金繰りは厳しくなります。さらに金利が上昇すれば、新規借入や借り換えなどの資金調達コストにも影響します。
東京商工リサーチも、円安による原材料コストの上昇や金利上昇などを企業を取り巻く環境変化として挙げています。価格転嫁や収益改善で負担を吸収できない企業では、市場からの退出が増える可能性が指摘されています。
特に影響を受けやすいのは価格転嫁しにくい事業
物価高の影響はすべての企業で同じではありません。原材料価格が10%上がっても、そのまま販売価格を10%上げられる会社なら利益を維持しやすくなります。一方、値上げすると顧客が離れてしまう業種では価格転嫁が難しくなります。
例えば小規模な飲食店では、食材や光熱費が上昇しても一気にメニュー価格を上げるのは簡単ではありません。介護など公定価格の影響を受ける業種では、一般の商品・サービスとは価格設定の事情も異なります。
実際、東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者では休廃業・解散が653件、倒産が176件となり、いずれも過去最多となりました。同調査では人手不足や物価高などが経営環境を厳しくしていることが指摘されています。[参照:東京商工リサーチ 介護事業者調査]
倒産が増えていても日本中の会社が一方的に減っているとは限らない
ここで注意したいのは、倒産・廃業の増加だけを見て「日本では会社がなくなる一方だ」と考えないことです。退出する会社がある一方、新しく誕生する会社もあります。
東京商工リサーチによると、2025年に新しく設立された法人は15万7,011社となり、過去最多を記録しました。つまり2025年は倒産や休廃業・解散が増える一方で、新設法人も多いという企業の新陳代謝が進んだ年でもあります。[参照:東京商工リサーチ 2025年新設法人調査]
そのため景気や経済の状態を判断するときには、倒産件数だけではなく、新規開業、企業収益、雇用、賃金、物価、消費など複数の指標を見る必要があります。
まとめ:倒産・廃業は増えているが原因は物価高だけではない
近年、日本では倒産や休廃業・解散が実際に増加しています。2025年は企業倒産が1万300社、休廃業・解散が6万7,210社となりました。したがって「最近、倒産や廃業が増えているのか」という疑問に対しては、増加傾向が確認できるといえます。
ただし、その原因を単純に物価高だけに求めることはできません。原材料・エネルギー価格の上昇、円安、人件費上昇、人手不足、価格転嫁の難しさ、借入金返済、金利、経営者の高齢化、後継者不足などが重なっています。
特に重要なのは「売上があるか」だけではなく、上昇したコストを販売価格へ転嫁して利益を確保できるかという点です。現在の企業倒産・廃業の増加は、物価高を含む複数の経営環境の変化に対応できる企業と、対応が難しい企業との差が表れている現象として捉えるのが適切でしょう。
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