国債・株式を24時間365日「即時決済」できる国はある?海外の実例と日本が目指すブロックチェーン証券決済を解説

株式

日本では、国債や株式などの売買について、ブロックチェーン技術を活用して証券の受け渡しと代金の支払いをほぼ同時に行い、将来的には24時間365日取引・決済できる仕組みを目指す動きが進んでいます。

ここで注意したいのは、「24時間取引できること」と「取引した証券と代金をその場で最終決済できること」は別だという点です。米国株には夜間取引が広がっていますが、通常の株式市場では売買成立と決済完了の間に時間があります。

海外ではスイスを中心に、ブロックチェーン上で証券と資金を同時に受け渡す「アトミック決済」の実用化がかなり進んでいます。一方、2026年時点では、日本政府が構想するような主要な国債・株式市場全体について24時間365日、売買から資金・証券の最終決済まで即時完結する仕組みを全面的に実現した主要国はまだないと考えるのが適切です。

日本が目指しているのは単なる「24時間株取引」ではない

日本で検討されている仕組みは、証券取引所の営業時間を延長するだけの話ではありません。金融庁は2026年2月、野村證券、大和証券、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループによる、ブロックチェーンを利用した証券決済の実証を支援すると発表しました。

実証では、株式などの有価証券についてブロックチェーンを利用して権利移転を行い、それとステーブルコインによる代金決済を連動させます。つまり、買い手から代金が移るのと同時に、売り手から証券の権利が移る仕組みを検討しています。[参照:金融庁・決済高度化プロジェクト]

政府資料では、これが実現した場合、決済リスクや事務負担を減らせるだけでなく、将来的に24時間365日の証券取引につながり、海外投資家を含む幅広い投資家を呼び込める可能性があると説明されています。[参照:内閣官房・オンチェーンでの証券決済に向けた取組み]

現在の株式・国債は「売った瞬間に現金化完了」ではない

現在の一般的な証券市場では、注文が成立する「約定」と、証券と代金を実際に受け渡して取引を完了する「決済」の間に時間があります。

日本では現在、通常の株式取引は原則として約定日から2営業日後のT+2で決済され、日本国債はT+1が基本です。米国では2024年に株式などの標準決済期間をT+2からT+1へ短縮しました。[参照:米国SEC・証券決済期間]

例えば月曜日に株式を売却した場合、売買契約そのものは月曜日に成立していても、従来型の仕組みでは証券と現金の最終的な受け渡しは後日になります。日本が検討するオンチェーン決済では、この時間差を極端に短くすることが目標の一つです。

海外で最も近い実例の一つがスイスのSIX Digital Exchange

日本が構想する仕組みに近い実用例として注目されるのが、スイスのSIX Digital Exchange(SDX)です。SDXはスイス金融市場監督機構FINMAの規制を受けるデジタル証券取引・決済インフラで、2021年からサービスを開始しています。

SDXでは株式や債券などをデジタル証券として分散型台帳上で管理し、取引と決済を同一のデジタル基盤上で処理できます。SDXの資料では、DLTを利用したAtomic Settlement(アトミック決済)によって即時決済を行える仕組みが示されています。[参照:SIX Digital Exchange]

「アトミック」とは、証券だけ移転して代金が来ない、あるいは代金だけ支払って証券を受け取れない状態を防ぎ、両方を一体として処理する考え方です。従来の証券決済よりも、日本が目指しているオンチェーンDVPにかなり近い仕組みです。

スイスではデジタル国債・社債の中央銀行マネー決済も実証されている

スイスではさらに、デジタル証券と中央銀行マネーを組み合わせる取り組みも進んでいます。SDXではUBSなどによるデジタル債券の発行実績があり、スイス国立銀行(SNB)のホールセールCBDCを利用したデジタル証券決済も実証されています。

これは重要なポイントです。ブロックチェーン上に株や債券だけを載せても、代金側が従来銀行システムの営業時間に制約されていれば、本当の意味で24時間即時決済することは難しくなります。

そこで証券と同じデジタル基盤上で使える中央銀行マネー、預金トークン、ステーブルコインなどを用意し、「デジタル証券+デジタルマネー」を同時移転することが世界的な研究テーマになっています。

ただしSDXも「世界中の株や国債を24時間365日売買できる市場」ではない

SDXは非常に先進的ですが、「スイスでは普通の株式や国債がすべて24時間365日即時決済されている」と理解するのは正確ではありません。

即時のアトミック決済技術が実用化されていることと、一般的な証券市場が年中無休で運営されていることは別です。取引所の営業時間、参加金融機関、中央銀行マネーの利用時間、法制度など複数の条件がそろわなければ完全な24時間365日市場にはなりません。

実際、日本の金融担当大臣も2026年2月の会見で、ブロックチェーンやステーブルコインによる証券決済について世界各市場が競争しているものの、「まだそれを完全に実現したところはない」という認識を示しています。[参照:金融庁・2026年2月13日大臣会見]

米国では株式取引の24時間化が進むが決済は別

米国では証券市場の取引時間を大幅に延ばす動きが進んでいます。DTCC傘下のNSCCは2026年6月から、米国株式の清算サービスを従来より拡大し、日曜日夜から金曜日夜までほぼ連続する24時間×5日体制へ移行しました。

これにより、夜間に行われる米国株取引でも中央清算機関による保証を早い段階から適用しやすくなりました。海外投資家にとって、ニューヨーク時間の昼間を待たずに米国株を取引できる環境は着実に広がっています。[参照:DTCC・NSCCの24×5清算]

ただし米国株の通常決済はT+1です。したがって「夜中でも取引・清算できる」ことと、「夜中に売った瞬間、証券と現金の最終受け渡しまで完了する」ことは同じではありません。

中国は株式の証券受け渡しが当日でも資金決済は翌日になる場合がある

中国本土のA株市場も興味深い例です。米国SECの資料では、中国A株は証券そのものについて取引日当日に受け渡す仕組みを採用しており、市場終了から数時間以内に証券側の処理が進むと説明されています。

しかし、関連する代金については銀行システム上で翌朝に処理される仕組みがあるため、証券と資金の両方が同じ瞬間に最終決済されるわけではありません。[参照:米国SEC・各国の決済期間比較]

この例からも、証券だけを高速化するのでは不十分であることが分かります。日本の構想でステーブルコインなどによる資金決済まで同時に検討されているのは、この問題を解決するためです。

シンガポールでもトークン化証券の実証が進んでいる

シンガポール金融管理局(MAS)は「Project Guardian」を通じ、銀行、証券会社、運用会社などとトークン化された金融資産の実証を進めています。

対象は債券、外国為替、投資ファンドなど幅広く、デジタル債券の発行や売買、トークン化預金による決済、債券を利用したレポ取引などが検討されています。参加企業にはUBS、Standard Chartered、SBI Digital Asset Holdingsなど世界的な金融機関も含まれています。[参照:シンガポール金融管理局・Project Guardian]

ただし、こちらも国全体の一般的な株式・国債市場が24時間365日即時決済へ完全移行した例ではありません。実証や特定商品の商用化を通じて、将来の金融市場インフラを作っている段階です。

なぜ暗号資産なら24時間なのに株や国債では難しい?

ビットコインなどの暗号資産市場では、土日や祝日を問わず24時間365日の取引がすでに一般的です。そのため「同じブロックチェーンを使えば株式も簡単に24時間化できるのでは」と考えたくなります。

しかし株式や国債には、取引所だけではなく証券会社、銀行、中央銀行、証券保管振替機関、清算機関など多くの組織が関係します。企業の株主名簿や配当、国債の利払い、法的な所有権、担保設定なども正確に管理する必要があります。

さらに、証券の移転だけ24時間化しても、銀行側の資金決済が停止していれば完全な即時決済にはなりません。このため、各国では証券のトークン化と同時に、CBDC、トークン化預金、ステーブルコインなど「24時間動かせるお金」の研究も進めています。

DVPが24時間即時決済の重要な仕組み

証券決済を理解するうえで重要な言葉が「DVP(Delivery Versus Payment)」です。これは証券の引き渡しと代金の支払いを相互に条件付け、一方だけが実行されないようにする仕組みです。

例えば100万円分の国債を買う取引で、買い手が100万円を支払ったのに国債が来なければ大きな問題になります。逆に売り手が国債を渡したのに100万円を受け取れないのも困ります。DVPでは、この2つを連動させます。

日本でもDVP自体は以前から利用されており、日銀ネットでは国債と資金の決済を連動させています。今回の革新は、それをブロックチェーン上でより即時的に行い、将来的には現在の営業時間という制約まで取り除こうとしている点です。[参照:日本銀行・DVPとは]

海外の現状を比較するとどうなる?

国・市場 現在の特徴 24時間365日・即時決済
スイス SDX DLT上でデジタル証券のアトミック即時決済が可能 技術的に非常に近いが、市場全体が完全24/365ではない
米国 株式清算は2026年から24×5へ拡大、通常決済はT+1 24/365即時決済ではない
中国A株 証券受け渡しは当日処理 資金側との完全同時即時決済ではない
シンガポール Project Guardianでトークン化債券・預金等を実証 実証・限定運用段階
日本 株式T+2、国債T+1。オンチェーンDVPを実証中 将来的な24時間365日化を検討

こうして比較すると、世界は一斉に「T+2→T+1→当日→即時」という方向へ進んでいるものの、主要証券市場すべてが最終段階へ到達しているわけではないことが分かります。

24時間即時決済になると何が変わる?

最大のメリットの一つは、売却した資金を早く再利用できることです。現在は株を売却しても決済が完了するまで時間がありますが、即時決済なら売却とほぼ同時に資金を確定させ、その資金で別の資産を購入するといった使い方がしやすくなります。

また、証券と資金が瞬時に交換されれば、取引相手が決済日までに破綻するリスクも小さくできます。海外との時差の問題も小さくなり、日本時間の深夜に海外投資家が取引する市場を作りやすくなります。

一方で、即時決済では現在のように「決済日までに必要資金を準備する」という余裕がなくなります。金融機関には常時十分な資金・証券を用意する必要が生じるため、流動性管理の難しさという新しい課題もあります。

24時間365日になっても個人投資家が毎晩売買すべきとは限らない

技術的にいつでも取引できるようになることと、投資家が24時間市場を監視したほうがよいことは別問題です。市場参加者が少ない時間帯には、売り注文と買い注文の価格差であるスプレッドが広がる可能性があります。

また、企業の重要ニュースが深夜に出れば即座に価格へ反映される市場になる可能性もあります。利便性が上がる反面、「市場が閉まっている間に情報を整理する時間」がなくなるという面もあります。

そのため24時間市場は、特に世界中の機関投資家や国際的な資金取引には大きな意味がありますが、長期投資をする個人が常時売買する必要があるわけではありません。

まとめ|海外にも即時決済の先行例はあるが「主要株・国債の完全24時間365日化」はまだ途上

海外には、日本が目指している仕組みに近い先行例があります。中でもスイスのSIX Digital Exchangeは、ブロックチェーン上でデジタル証券を発行・管理し、証券と代金をアトミックに即時決済できる先進的な市場インフラです。

米国でも2026年に株式の清算が24時間×5日へ拡大し、シンガポールではトークン化された債券や預金を使う実証が進むなど、世界的に証券決済の高速化・デジタル化が加速しています。

しかし、2026年時点では、一般的な国債や株式について「24時間365日いつでも売買でき、証券と資金の最終決済までその場で完了する」という市場を主要国が全面的に実現した例はまだありません。金融庁も、完全な形を実現した市場はまだないとの認識を示しています。

したがって日本の構想は海外の単純な後追いというより、スイスなどの先行事例を踏まえながら、国債・株式・資金決済まで大規模な既存市場へ広げようとする最先端の競争の一つと見るのが適切です。

株式
最後までご覧頂きありがとうございました!もしよろしければシェアして頂けると幸いです。
最後までご覧頂きありがとうございました!もしよろしければシェアして頂けると幸いです。
riekiをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました