IPOにおけるアンダープライシングの主要理論とは?代表的な4つの理論と関連論文を解説

株式

IPO(新規株式公開)では、公開価格よりも初値が大きく上昇する現象が頻繁に観察されます。この公開価格が市場で形成される価格より低く設定される現象を「アンダープライシング(Underpricing)」と呼びます。

アンダープライシングは企業、投資家、証券会社の情報格差や市場の不確実性などによって発生すると考えられており、ファイナンス研究において長年議論されてきました。この記事では、IPOアンダープライシングを説明する主要な理論と、それぞれの代表的な研究論文について解説します。

IPOアンダープライシングとは何か

IPOアンダープライシングとは、企業が新規上場する際に設定する公開価格(Offer Price)が、上場後の市場価格(初値)よりも低く設定される現象です。

例えば、ある企業がIPOで1株1,000円の公開価格を設定したにもかかわらず、上場初日に市場で1,500円の初値がついた場合、500円分がアンダープライシングによる初期収益となります。

この現象は世界各国のIPO市場で確認されており、なぜ企業が意図的に低い価格で株式を売り出すのかについて、多くの理論が提案されています。

情報の非対称性理論(Winner’s Curse Theory)

アンダープライシングを説明する代表的な理論の一つが、情報の非対称性理論です。特にRock(1986)が提唱した「Winner’s Curse(勝者の呪い)」理論は、IPO研究に大きな影響を与えました。

この理論では、IPO市場には企業価値について詳しい情報を持つ投資家(情報投資家)と、十分な情報を持たない投資家(非情報投資家)が存在すると考えます。

情報を持つ投資家は割安なIPOだけに応募するため、非情報投資家は割高なIPOを多く購入してしまう可能性があります。この問題を解消するため、企業や証券会社はIPO価格を低く設定し、非情報投資家にも参加するメリットを与える必要があるという考え方です。

代表論文:
Rock, K. (1986) “Why New Issues Are Underpriced”

情報開示理論(Signaling Theory)

情報開示理論では、IPO時のアンダープライシングを企業が市場へ送るシグナルとして説明します。

代表的な研究であるAllen and Faulhaber(1989)やWelch(1989)は、優良企業ほど将来の成長性を投資家に示すために、あえてIPO価格を低く設定する可能性があると考えました。

公開価格を低く設定すると、上場後の株価上昇によって市場から高い評価を得ることができます。その結果、将来的な追加株式発行などを有利な条件で行えるというメリットがあります。

つまり、アンダープライシングは単なる価格設定ミスではなく、企業の質を伝えるための戦略的行動であるという考え方です。

代表論文:
Allen, F. and Faulhaber, G. R. (1989) “Signaling by Underpricing in the IPO Market”
Welch, I. (1989) “Seasoned Offerings, Imitation Costs, and the Underpricing of Initial Public Offerings”

情報獲得理論(Bookbuilding Theory)

情報獲得理論は、IPOの価格決定プロセスであるブックビルディング方式に注目した理論です。代表的な研究者としてBenveniste and Spindt(1989)が挙げられます。

ブックビルディングでは、証券会社が投資家から需要情報を集め、その情報をもとに公開価格を決定します。しかし、投資家は自分が持っている有益な情報を簡単には提供しません。

そこで証券会社は、情報を提供した投資家に利益を与えるため、IPO価格を意図的に低く設定する場合があります。これにより、投資家から正確な需要情報を引き出すことができるという考え方です。

代表論文:
Benveniste, L. M. and Spindt, P. A. (1989) “How Investment Bankers Determine the Offer Price and Allocation of New Issues”

エージェンシー理論・利益相反による説明

IPOには企業、既存株主、証券会社、投資家など複数の関係者が存在します。そのため、それぞれの利害関係の違いによってアンダープライシングが発生するという考え方もあります。

例えば、証券会社はIPOを成功させるために確実な販売を重視します。そのため、公開価格を低めに設定して投資家の需要を高めるインセンティブが働く場合があります。

また、企業側も上場初日の株価上昇によって市場から注目を集めるメリットがあるため、一定程度のアンダープライシングを受け入れる可能性があります。

IPOアンダープライシング研究で頻繁に引用される代表論文

理論 代表的研究 主な内容
Winner’s Curse理論 Rock(1986) 情報格差による非情報投資家保護
シグナリング理論 Allen and Faulhaber(1989)、Welch(1989) 企業価値を示す市場へのシグナル
ブックビルディング理論 Benveniste and Spindt(1989) 投資家情報を引き出すための価格設定
エージェンシー理論 各種IPO研究 関係者間の利害調整による説明

近年のIPO研究で注目される視点

近年では、従来の情報格差モデルだけではなく、投資家心理や市場環境、ベンチャー企業の成長期待などもアンダープライシングの要因として研究されています。

特にIT企業やスタートアップ企業では、将来成長への期待が大きいため、公開価格と市場評価の差が大きくなるケースがあります。

また、国ごとの制度や市場構造によってアンダープライシングの程度が異なることも分かっており、日本市場を対象とした研究も多数存在します。

まとめ|IPOアンダープライシングは複数の要因で発生する

IPOアンダープライシングには、情報の非対称性、企業のシグナル発信、ブックビルディングにおける情報収集、関係者間の利害調整など、複数の理論があります。

現在のIPO研究では、一つの理論だけですべてを説明することは難しく、市場環境や企業特性などを組み合わせて分析する考え方が主流です。

IPOを理解する上では、Rock(1986)のWinner’s Curse理論、Allen and Faulhaber(1989)のシグナリング理論、Benveniste and Spindt(1989)のブックビルディング理論などの主要論文を押さえることで、アンダープライシング現象への理解を深めることができます。

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