予算要求143兆円で日本の借金は増える?赤字国債・財政再建・円安の関係をわかりやすく解説

経済、景気

国の予算規模が過去最大になったというニュースを見ると、「その分だけ赤字国債を発行して政府の借金が増えるのではないか」「財政悪化が嫌われて円安になるのではないか」と考えやすくなります。しかし、予算要求額、国債発行額、政府債務、円相場はそれぞれ別の数字であり、単純に一本の線で結ぶことはできません。

2026年8月末には、2027年度予算の各省庁による概算要求が約143兆円に達し、4年連続で過去最大になる見通しだと報じられました。一方で、政府は新規国債発行額について約40兆円を一つの目安とする方針も示しています。つまり、「143兆円の予算要求=143兆円の赤字国債を発行する」という意味ではありません。

それでも、歳出が税収などを上回り、その差額を国債で賄えば政府債務は増えます。そして財政運営に対する市場の不安が強まれば、国債金利や円相場に影響を与える可能性があります。この記事では、この一連の関係を順番に整理します。

「予算要求143兆円」は143兆円の借金をするという意味ではない

まず理解しておきたいのが、「概算要求」と「最終的な予算」は違うという点です。概算要求とは、各省庁が翌年度に必要と考える予算を財務省へ提出する段階の数字です。その後、財務省による査定や政府内の調整を経て予算案が作成され、国会で審議されます。

2027年度については、各省庁の概算要求額が約143兆円となり、過去最大になる見通しだと報じられています。ただし、今回の金額には高市政権の成長投資方針だけでなく、従来は補正予算に計上していた支出の一部を当初予算へ組み込むという予算編成上の変更も影響しています。[参照]

したがって、143兆円という数字だけを見て「前年よりそれだけ借金が増える」と判断することはできません。政府には税収、税外収入などの歳入があり、それでも不足する分について国債を発行します。

重要なのは予算総額ではなく、「最終的な歳出はいくらか」「税収などでいくら賄えるか」「不足分として新たに国債をいくら発行するか」です。

赤字国債を発行すれば政府の負債は基本的に増える

歳出を税収などだけでは賄えず、新たな国債を発行して資金を調達すれば、その国債は政府の負債になります。この点については会計上かなり明確です。

例えば政府が100兆円を支出するのに対して、税収などの歳入が80兆円しかなかったとします。不足する20兆円を新規国債で調達すれば、単純化すると政府には新たに20兆円分の債務が発生します。

項目 簡単な例
歳出 100兆円
税収など 80兆円
不足額 20兆円
新規国債発行 20兆円

ただし政府は毎年、過去に発行した国債の償還や借換えも行っています。そのため「今年の新規国債発行額」と「政府債務残高の変化」が完全に同じになるわけではありません。それでも、財政赤字を国債によって補う状態が続けば、政府債務を増加させる方向に働くことは確かです。

2027年度は143兆円すべてを国債で賄う予定ではない

2027年度予算について、高市首相は新規国債発行額を約40兆円以内に抑えることを一つの目安とする考えを示したと報じられています。これは概算要求額約143兆円とは大きく異なる数字です。[参照]

もちろん、最終的な国債発行額は税収や予算編成の内容によって変化します。しかし少なくとも、「要求額143兆円だから143兆円分の赤字国債を発行する」という理解ではありません。

また、今回の概算要求額が大きくなっている理由の一つとして、従来は年度途中の補正予算に回していた支出の一部を当初予算へ統合する方針があります。そのため過去の当初予算要求額との単純比較では、実際の財政拡張の大きさを過大評価する可能性があります。

では国債発行が増えると財政再建には逆行するのか

新たな国債を発行して債務残高が増えるだけなら、財政健全化とは逆方向に見えます。しかし財政の持続可能性は、借金の絶対額だけでは判断できません。

経済学や財政分析では、政府債務をGDPと比較した「政府債務残高対GDP比」が重要視されます。政府の借金が増えていても、GDPや税収がそれ以上に増えれば、経済規模に対する債務負担は低下する可能性があるためです。

例えば債務1,000兆円、GDP500兆円なら債務GDP比は200%です。その後、政府が成長投資を行った結果として債務が1,100兆円になっても、GDPが700兆円まで成長すれば比率は約157%になります。

逆に債務だけが1,100兆円へ増え、GDPがほとんど500兆円のままであれば、比率は220%へ悪化します。したがって、国債を発行したかどうかだけではなく、その支出によって将来の生産力や税収をどれだけ増やせるかが重要です。

「積極財政なら成長して税収が増える」は条件付きで成立する

国債を発行して公共投資や成長分野へ資金を投入し、それによってGDPを押し上げ、結果的に税収を増やすという考え方には経済学的な根拠があります。特に景気が弱く、企業や家計の需要が不足しているときには、政府支出が景気を支える役割を果たします。

例えば政府が電力網、AI・半導体、人材教育、防災インフラなどへ投資し、その結果として民間企業の生産性や投資が長期間にわたって拡大すれば、将来のGDPと税収が増える可能性があります。

一方、国債で調達した資金を使っても経済の供給能力がほとんど高まらず、一時的な消費だけが増える場合には、債務だけが残ることもあります。経済がすでに人手不足などで供給能力の限界に近い状況なら、需要の追加が実質成長より物価上昇につながる可能性もあります。

そのため、積極財政が財政再建につながるかどうかは、「国債を出すこと」そのものではなく、国債で調達した資金からどれだけ持続的な成長を生み出せるかによって変わります。

財政悪化への懸念が強まると円安になる可能性はある

財政赤字そのものと円相場の間に、「赤字が1兆円増えたら円が○円下がる」というような機械的な関係はありません。しかし、財政運営に対する市場の信頼が低下した場合、円安要因になることはあります。

例えば投資家が「政府支出が大きく増える一方で税収増加や歳出改革の見通しがなく、国債発行が今後も拡大する」と予想したとします。その結果、将来のインフレや国債増発を警戒して日本国債を売ったり、円資産の保有を減らしたりすれば、円売り圧力が発生する可能性があります。

実際、2026年夏には高市政権の財政拡張への警戒が、日本国債市場や円相場で意識される材料の一つとなっています。ロイターは、日本の公的債務や拡張的な財政政策への懸念が市場で注目される中、10年国債利回りが約30年ぶりの水準まで上昇したと報じています。[参照]

したがって、「財政不安が円安の要因になることはある」という理解は妥当です。ただし、それだけで円相場が決まるわけではありません。

円安の原因を財政赤字だけで説明してはいけない

為替レートには、日本の財政だけでなく、日本銀行と海外中央銀行の金利差、景気見通し、インフレ率、貿易やサービス収支、海外投資、原油価格、投資家のリスク選好など数多くの要因が影響します。

例えば米国の金利が日本より大幅に高ければ、円を売って高い利回りが期待できるドル資産へ資金を移す動きが起きやすくなります。これだけでも円安圧力になります。

反対に日本の財政赤字が大きくても、日銀が金利を引き上げ、海外との金利差が急速に縮小すれば円高方向へ動くこともあり得ます。

そのため現在の円安については、「財政への懸念も一つの要因だが、財政赤字だけが原因ではない」と整理するのが適切です。

財政懸念は円相場より国債金利に直接現れることもある

政府の財政運営に対する評価を見る場合、円相場だけでなく国債金利も重要です。投資家が大量の国債発行を予想すると、国債の供給増加や将来のインフレを織り込み、より高い利回りを求める場合があります。

2027年度について財務省が要求する国債費は36.64兆円と過去最大になる見通しだと報じられています。背景には市場金利の上昇があり、国債費を計算するための想定金利も3.8%へ引き上げられました。[参照]

政府債務が非常に大きい国では、金利上昇の影響も大きくなります。ただし既存国債すべての金利が一度に上がるわけではありません。国債にはさまざまな満期があるため、高い金利での借換えが進むにつれて時間をかけて利払い負担が増加していきます。

IMFも2026年の日本経済に関する審査で、今後は利払い費や高齢化に伴う医療・介護支出の増加が財政に圧力を与え、長期的には政府債務GDP比が再び上昇する可能性を指摘しています。[IMF参照]

国債金利が上がるとなぜ財政がさらに苦しくなるのか

国債の金利が上昇すると、政府が新規国債を発行したり既存国債を借り換えたりするときに支払う利息が増えます。政府債務残高が小さければ影響は限定的ですが、日本のように債務残高が大きい場合には徐々に大きな負担になります。

例えば1,000兆円の債務に平均1%の利息がかかると単純計算では10兆円です。平均金利が2%なら20兆円、3%なら30兆円になります。実際には国債の満期や種類が異なるため、このように瞬時に変化するわけではありませんが、金利上昇が長期化すると方向としては利払い費が増えていきます。

すると税収のより大きな部分を過去の国債の利払いへ使う必要が生じ、教育、防衛、社会保障、公共投資など他の政策へ使える財源を圧迫します。さらに利払いを賄うため新しい国債を多く発行すれば、債務が一段と増える可能性があります。

このため、財政への市場の信頼を維持することは「円を守る」だけではなく、政府自身の資金調達コストを抑える意味でも重要です。

国債発行が増えても円高になるケースはあり得る

国債発行と円相場が一対一で対応しないことを理解するために、別のケースを考えてみます。政府が10兆円を国債で調達し、それを非常に生産性の高い投資に使ったとします。

市場参加者が「この投資によって日本企業の生産性が上がり、将来の成長率や税収が上昇する」と判断すれば、日本への投資資金が増える可能性があります。また成長やインフレによって日銀が金利を引き上げるとの予想が強まれば、海外との金利差縮小によって円高圧力が発生することも考えられます。

反対に、同じ10兆円でも将来の成長につながらず、毎年続く支出を借金だけで賄う政策だと評価されれば、市場の反応は異なるでしょう。

つまり市場は単純に「国債発行額」だけを見ているのではなく、「何に使うのか」「将来も続くのか」「経済成長や税収につながるのか」まで含めて評価しています。

「国債は国内で買われているから問題ない」とも言い切れない

日本国債は日本銀行、銀行、生命保険会社、年金など国内主体によって多く保有されています。この点は、海外から外貨建てで多額の借金をしている国とは大きく異なります。

自国通貨である円建ての債務であり、国内に大きな国債市場があることは、日本が外貨不足によって突然返済できなくなるリスクを低くする重要な要素です。

しかし国内の投資家が国債を保有しているからといって、政府の負債が消えるわけではありません。国債は政府にとって負債であり、保有している銀行や投資家にとって資産です。

また、国債の魅力が低下すれば国内投資家であってもより高い利回りを要求します。その結果として国債金利が上昇すれば、政府の利払い負担も増加します。したがって「国内消化だから国債はいくら発行しても問題ない」という結論にはなりません。

「日銀がお金を作れるから国債は問題ない」にも限界がある

日本政府の債務は主として円建てであり、円を発行する中央銀行として日本銀行が存在します。このため家計や企業、外貨建て債務を抱える国とは事情が違い、政府が単純に「円そのものを調達できなくなる」というリスクは考えにくい面があります。

しかし、お金を発行すれば経済上の負担がなくなるわけではありません。政府支出によって需要を増やせても、日本国内の労働力、工場、土地、原材料、エネルギーなどを瞬時に増やすことはできないからです。

供給できる商品やサービスよりも支出だけが大きく増えれば、インフレになります。また市場が「政府債務を実質的に通貨発行で賄い続ける」と予想すると、円の将来価値への懸念から円売りにつながる可能性もあります。

自国通貨建て国債の本当の制約は、単純な「お金切れ」だけではなく、インフレ・金利・為替・経済の供給能力です。

円安が進むと日本経済にはどんな影響があるのか

円安そのものにはメリットとデメリットの両方があります。海外で商品を販売する輸出企業では、ドルなどで得た利益を円へ換算したときに金額が大きくなりやすく、海外からの旅行者にとって日本が割安になるためインバウンドにもプラスになることがあります。

一方、日本は原油、天然ガス、穀物、飼料、原材料などを海外から多く輸入しています。円安になると、同じ海外商品を購入するために必要な円が増えます。

例えば海外で100ドルの商品なら、1ドル=120円なら1万2,000円ですが、1ドル=160円なら1万6,000円です。ドル建て価格が同じでも輸入コストは約33%増えます。

これが電気料金、ガソリン、食品などへ転嫁され、賃金の伸びが追いつかなければ家計の実質的な購買力が低下します。そのため、企業の競争力向上ではなく財政や通貨への不信だけによって進む円安は、日本経済にとって好ましいとは言いにくいでしょう。

急激に財政再建すれば必ず円高になって経済が良くなるわけでもない

一方で、「借金を減らすために政府支出を大幅に削ればよい」というほど単純でもありません。不況時に政府が急激な増税や歳出削減を行えば、家計消費や企業活動を弱め、GDPを押し下げる可能性があります。

GDPが縮小すれば税収が減り、債務GDP比も想定ほど改善しない場合があります。つまり財政再建には、借金を減らすことだけでなく経済の成長を維持することも必要です。

IMFは2026年の対日審査で、日本について財政余力を再構築し、政府債務GDP比を持続的な低下軌道に乗せることを求める一方、単純な歳出削減ではなく、質の高い人的・物的投資を守る「成長に配慮した財政調整」を推奨しています。[IMF参照]

財政ニュースを見るときに確認したい5つの数字

「予算が過去最大」という見出しだけでは、日本の財政が改善しているのか悪化しているのかを判断することはできません。少なくとも次の項目を一緒に見る必要があります。

  • 新規国債発行額:その年度に新たにどれだけ借りるのか
  • 税収:歳出を自前の収入でどの程度賄えるか
  • 基礎的財政収支:利払いなどを除いた政策経費を税収で賄えているか
  • 政府債務GDP比:経済規模と比較して債務負担が拡大しているか
  • 国債金利・国債費:債務を維持するコストがどの程度増えているか

さらに、その支出が一時的なものなのか、毎年続く恒久的なものなのか、生産性向上につながる投資なのかも重要です。

例えば同じ10兆円の国債発行でも、生産性を高めて将来の税収を大きくする10兆円と、経済効果が小さいまま恒久的な支出だけを増やす10兆円では、財政に与える長期的な影響は大きく異なります。

まとめ|143兆円の予算要求だけで「借金増加→円安」とは決まらない

2027年度の概算要求が約143兆円と過去最大規模になったことは、日本の歳出規模を考えるうえで重要なニュースです。しかし、143兆円は各省庁による要求額であり、143兆円すべてを新規国債によって賄うという意味ではありません。政府は新規国債発行について約40兆円を一つの目安とする方針も示しています。

一方、税収などを上回る支出を赤字国債で賄えば、政府の負債を増加させる方向に働きます。さらに市場がその財政運営を持続不可能だと判断すれば、国債金利上昇や円売りを通じて円安要因になる可能性があります。

ただし、為替は財政だけでは決まりません。日本と海外の金利差、日銀の金融政策、経済成長率、物価、国際収支などさまざまな要因が同時に影響します。したがって、「予算要求が増える→同額の赤字国債を発行する→必ず円安になる」という理解は単純化しすぎです。

財政を評価するときに重要なのは、予算額の大きさそのものよりも、新規国債を実際にいくら発行するのか、税収はどれほど増えるのか、国債金利と利払い費がどう推移するのか、そして支出によって日本経済の成長力を高められるのかという点です。財政拡大によって成長率と税収を十分に引き上げられれば債務負担を相対的に軽くできる一方、成長を伴わず債務と利払いだけが増えれば、財政と円の双方に対する市場の警戒を強める可能性があります。

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