2026年8月28日のジャクソンホール会議で、FRB(米連邦準備制度理事会)のケビン・ウォーシュ議長がインフレへの警戒姿勢を改めて示したことで、金価格は大きく下落しました。金を保有している人にとっては、このまま下落が続き、1トロイオンス=4,000ドルを割るのではないかと気になる局面です。
結論からいうと、ウォーシュ議長の発言は短期的には金価格の下押し材料ですが、現時点で「しばらく低迷する」「4,000ドルを割る」と断定できる状況ではありません。金価格はFRBの政策だけでなく、実質金利、ドル、地政学リスク、ETF資金、中央銀行の購入など複数の要因で動くからです。
一方、4,000ドル割れが絶対にないとも言えません。高値圏にある金は値動きが大きくなっており、追加利上げ観測がさらに強まれば大幅な調整が起こる可能性も考えておく必要があります。
ウォーシュ議長の発言で金価格が下落した理由
ウォーシュ議長は2026年8月28日の講演で、米国経済について全体として強さを増しているとの認識を示す一方、基調的なインフレがFRBの目標へ明確かつ十分な速度で向かっていると確信できなければ、FRBには「やるべき仕事がある」という趣旨の姿勢を示しました。[参照:Federal Reserve]
市場はこれを金融引き締めに積極的な、いわゆるタカ派寄りのメッセージとして受け止めました。ロイターによると、発言後には9月の米利上げ確率が発言前の36%から58%へ上昇し、12月までの利上げ確率も89%まで高まりました。金現物価格は28日に3%超下落し、一時1オンス=4,567ドル程度まで下げています。[参照:Reuters]
金そのものには株式の配当や債券の利息がありません。そのため米金利が高くなるとの見方が強まると、利息を生む米国債などの相対的な魅力が増し、金には売り圧力がかかりやすくなります。さらにドル高もドル建て金価格の重荷になりやすいため、今回は「利上げ観測+ドル高」という金に逆風となる組み合わせが生じました。
では金価格はしばらく低迷するのか
短期的には、ウォーシュ議長の発言によって金相場の上値が重くなる可能性があります。特に市場が「9月だけでなく、その後も利上げが続く」と織り込み始めれば、米国債利回りや実質金利が上昇し、金にはさらに調整圧力が加わる可能性があります。
ただし、FRB議長の一度の発言だけで数カ月先までの金相場が決まるわけではありません。ウォーシュ議長自身も今回の講演で特定の政策決定を約束したわけではなく、政策判断では単独のデータではなくトレンドを見る姿勢を示しています。
例えば今後の米雇用や景気指標が急速に悪化すれば、追加利上げを続けにくくなる可能性があります。反対にインフレが再加速すれば利上げ観測が強まり、金への逆風になり得ます。つまり次の方向を決めるのはウォーシュ発言そのものより、発言後に出てくる経済データがその見方を裏付けるかです。
金価格が4000ドルを割る可能性はある?
4,000ドル割れは十分起こり得る価格変動の範囲ですが、現時点で基本シナリオとして断定することもできません。8月28日に約4,567ドルまで下落した水準から4,000ドルまでは約12%の距離があります。
金は2026年に非常に大きく動いているため、10%を超える調整そのものは非現実的な数字ではありません。実際、World Gold Councilによると2026年第2四半期のLBMA金価格は平均4,506.29ドルで、第1四半期の記録的な水準から8%低下しました。[参照:World Gold Council]
4,000ドル割れの可能性が高まりやすいのは、追加利上げ観測の強まり、実質金利の上昇、ドル高、金ETFからの資金流出、地政学リスクの後退などが同時に起こるケースです。逆にこれらが反転すれば、4,000ドルへ向かわず再び上昇するシナリオもあります。
金価格には中央銀行の買いという下支え要因もある
金相場を考えるうえで無視できないのが中央銀行の需要です。World Gold Councilによると、2026年第2四半期の中央銀行による金の純購入量は289トンとなり、第1四半期から大きく回復しました。[参照:World Gold Council]
これは「中央銀行が買っているから金は下がらない」という意味ではありません。中央銀行需要が強くても、金利上昇やETFからの大量流出があれば市場価格は下落します。しかし中長期的には、中央銀行による継続的な金準備の積み増しが需要面の支えになる可能性があります。
したがって現在の金市場は、「FRBのタカ派姿勢=下落材料」だけを見るより、金融政策による売り圧力と中央銀行・安全資産需要などの買い需要が綱引きをしていると考えたほうが実態に近いでしょう。
金ETFの資金流出が続くかにも注目
短期的な金価格を見るうえでは、ETFへの資金流入・流出も重要です。World Gold Councilによると、2026年第2四半期には金ETFから45トンの流出があり、背景として金価格の下落、北米を中心とするインフレ・金利見通しの上方修正、ドル高などが挙げられています。
これは現在のウォーシュ議長のタカ派的な姿勢とも関連性の高い材料です。利上げ期待がさらに強まり、米国の金ETFから継続的に資金が流出するようなら、金価格には追加の下押し圧力となる可能性があります。
反対に利上げ観測が後退して実質金利やドルが低下し、ETFへ資金が戻り始めれば、今回の急落が長期的な下落トレンドではなく一時的な調整だったという展開もあり得ます。
今後の金価格を見るなら5つの指標を確認する
金価格が4,000ドルへ向かうのか、それとも反発するのかを判断する際には、FRB議長の発言だけを追うより複数の指標を確認したほうが有効です。
- FRBの政策金利:追加利上げが実際に行われるか
- 米実質金利:上昇が続けば金には逆風になりやすい
- ドル指数:ドル高は一般にドル建て金価格の重荷になりやすい
- 金ETFの資金フロー:機関・投資家の資金が金へ戻るか
- 中央銀行・地政学要因:安全資産需要が維持されるか
特に重要なのは「利上げするか」という一点ではなく、インフレと景気を差し引いた実質金利です。金には利息がないため、安全性の高い債券で高い実質利回りを得られる環境になるほど相対的な魅力が低下しやすくなります。
日本の金投資家はドル建て価格だけ見ないことも重要
日本で金地金、純金積立、金ETFなどへ投資している場合、ドル建て金価格だけで損益を判断できない点にも注意が必要です。円建ての金価格にはドル円相場が影響するからです。
例えばドル建て金価格が10%下落しても、その間に円安・ドル高が進めば、日本円換算での下落率は小さくなる可能性があります。反対に「ドル建て金は横ばいなのに、円高によって国内金価格が下落する」ということもあります。
そのため日本の投資家は、ドル建て金価格+ドル円の両方を見る必要があります。ウォーシュ議長のタカ派姿勢は米金利上昇を通じてドル高要因になる場合もあり、金価格への影響と為替への影響が逆方向に働くこともあります。
まとめ:4000ドル割れはあり得るがウォーシュ発言だけで決まるわけではない
2026年8月28日のウォーシュFRB議長の発言は、インフレ抑制を重視する姿勢を改めて市場へ示し、追加利上げ観測を高めました。実際に金価格は発言を受けて3%超下落しており、短期的には金にとって明確な逆風になったと考えられます。
ただし、そこから「金は長期間低迷する」「必ず4,000ドルを割る」と結論付けるのは早計です。4,000ドル割れには約12%の追加下落が必要で、追加利上げ、実質金利、ドル、ETFフローなどが今後どう動くかによって状況は変わります。一方では中央銀行による金購入など、相場を支える需要も残っています。
今後は9月以降のFRBの政策判断だけでなく、米国のインフレ・雇用統計、実質金利、ドル指数、金ETFの資金フロー、中央銀行需要をセットで確認することが重要です。4,000ドルという一つの価格だけを予想するより、「どの条件がそろえば4,000ドル割れが現実味を帯びるのか」を追うほうが、現在の金相場を判断しやすいでしょう。
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