全世界株式、いわゆる「オール・カントリー(オルカン)」を資産形成の中心に据える場合、残りの一部をゴールドにするか、現金で待機させて株価暴落時に追加投資するかは悩みやすいテーマです。
例えば「オルカン90%+ゴールド10%」と「オルカン90%+現金10%を保有し、20%下落したら追加投資」という2つの戦略では、後者のほうが一見すると合理的な逆張り戦略に見えます。しかし、2年後にどちらが勝っているかを事前に断定することはできません。結果を左右するのは株価だけでなく、ゴールド価格、為替、暴落の有無とタイミングだからです。
重要なのは「ゴールド10%」と「暴落待ち現金10%」では、そもそも役割が違うことです。ゴールドは株式とは異なる値動きを期待する分散資産であるのに対し、待機資金は将来オルカンを買うための投資余力です。この違いから考えると、自分に向いている戦略が見えてきます。
オルカン9:ゴールド1と現金1では目的が違う
「オルカン90%+ゴールド10%」は、資産クラスを分けることでポートフォリオ全体の値動きを調整する考え方です。株式市場が下落したときにゴールドが同じように下落するとは限らないため、株式100%より値動きを分散できる可能性があります。
World Gold Councilは、ゴールドと株式の相関は一定ではなく、市場ストレスが強い局面では株式との相関が低下・マイナス方向になる傾向があると説明しています。2026年版の分析でも、ゴールドを組み入れた仮想ポートフォリオでは、一定期間においてボラティリティや最大ドローダウンを抑える効果が示されています。[参照:World Gold Council]
一方、「オルカン90%+現金10%」は安全資産への分散というより、10%をまだ株式へ投入せず、買い場を待つ戦略です。20%下落したところで全額を投入するのであれば、その時点から実質的に株式への配分を増やすことになります。
2年間ずっと株価が上昇した場合は現金待機が不利になりやすい
暴落待ち戦略の最大の弱点は、予定している暴落が来るとは限らないことです。例えばオルカン相当の株式市場が2年間で30%上昇し、その間に一度も基準価格から20%下落しなかったとします。
この場合、待機していた10%の現金は株価上昇の恩恵をほとんど受けません。さらに2年後にようやく20%下落したとしても、そこまでに30%上昇していれば「現在から20%安い価格」になるわけではありません。
具体例として100だった価格が130まで上昇し、そこから20%下落すると104です。20%の暴落を待ったにもかかわらず、最初の100より高い104で買うことになります。「暴落時に買えば安い」は、その暴落がどの水準から始まるかまで考えなければ成立しません。
逆に早い段階で20%暴落すれば現金戦略が機能する可能性がある
投資開始直後に世界株が20%以上下落し、その後回復する展開なら、現金10%を安値圏で追加投資できた戦略が有利になる可能性があります。
例えば100から80へ下落したところで待機資金を投入し、その後120まで回復すれば、80で追加購入した部分には50%の値上がりが発生します。このような相場では「現金を残しておいて良かった」という結果になります。
ただし現実には、20%下落した瞬間に「ここが買い場だ」と心理的に判断するのは簡単ではありません。20%下落したあと30%、40%とさらに下落する可能性があるからです。暴落待ち戦略では、実際に暴落が来たときルール通り買えるかという心理面も重要になります。
ゴールド10%は「株より儲ける」ためだけに持つものではない
ゴールドを10%組み入れる場合、「2年後にオルカンより値上がりするか」だけで評価すると本来の目的を見失いやすくなります。ゴールドをポートフォリオへ加える代表的な理由は分散です。
ゴールドには株式のような企業利益や配当がありません。そのため長期的な企業成長から収益を得る株式とはリターンの源泉が異なります。一方、地政学リスク、通貨への不安、金利、中央銀行需要などによって価格が動きます。
2026年のWorld Gold Councilも、ゴールドの先行きには複数のシナリオがあるとしています。経済・地政学的不安が強まれば上昇要因になり得る一方、経済成長の加速、金利上昇、ドル高、リスク低下などは価格を押し下げる可能性があります。つまり「株が下がればゴールドが必ず上がる」という保証もありません。[参照:World Gold Council Gold Outlook 2026]
2年という期間だけで優劣を決めるのは難しい
この比較で特に注意したいのが「2年後」という期間です。株式投資にとって2年間は比較的短く、開始時点と終了時点の相場環境によって結果が大きく変わります。
金融庁も資産形成の基本として「長期・積立・分散投資」を紹介しており、株式や投資信託には元本割れの可能性があることを明記しています。積立投資については、一定額を継続して投資することで「安いときに買わなかった」「高いときだけ買った」という状況を避けやすくなると説明しています。[参照:金融庁 NISA・資産形成の基本]
したがって、10年・20年単位の資産形成を目的としている人が「2年後にどちらが勝つか」だけを基準にポートフォリオを変更すると、短期予想へ依存した運用になりやすくなります。
「20%下落したら買う」は基準価格を決めないと実行できない
現金戦略を採用する場合、意外に難しいのが「20%ドローダウン」の定義です。何を基準に20%と判断するのかを最初に決めておかなければ、実際の相場では迷います。
例えば「投資を始めた日の基準価格から20%下落」「直近最高値から20%下落」「MSCI ACWIなどの指数が20%下落」「自分が保有する投資信託の基準価額が20%下落」では、それぞれ買うタイミングが異なります。
さらに円建てのオルカンでは海外株価だけでなく為替も基準価額に影響します。海外株式が大きく下落しても円安が進めば、円建て基準価額の下落率が小さくなる場合があります。そのためルールを作るなら、何を基準にドローダウンを測定するのかまで明確にする必要があります。
現金を一度に投入せず段階的に買う方法もある
「ゴールドか現金か」の二択だけでなく、待機資金を複数回に分けて投入する方法もあります。これは暴落の底値を一発で当てようとしない考え方です。
例えば現金10%を用意しておき、直近高値から10%下落で3%、20%下落で3%、30%下落で4%というように事前ルールを決める方法があります。これは一例であり、この配分が最適という意味ではありません。
こうしておけば20%まで下落せず反発した場合にも一部を投資できますし、20%で全額投入した直後にさらに40%まで下落するリスクも分散できます。ただし現金を待機させている間の機会損失がなくなるわけではありません。
どちらを選ぶかは「10%に何をさせたいか」で決める
判断するときは「2年後にどちらが儲かるか」を予想するより、残り10%の役割を決めるほうが実践的です。
| 考え方 | オルカン90%+ゴールド10% | オルカン90%+現金10% |
|---|---|---|
| 主な目的 | 資産クラスの分散 | 将来の追加投資余力 |
| 株価上昇が続く場合 | ゴールド次第 | 現金部分に機会損失が生じやすい |
| 株価急落時 | 分散効果を期待 | 安値で追加購入できる |
| 必要な判断 | 配分を維持・リバランスする判断 | 暴落時に実際に買う判断 |
| 弱点 | ゴールドも下落する可能性 | 暴落が来なければ現金のまま |
「株式とは違う値動きをする資産を持ちたい」ならゴールド、「暴落時の買い増し資金を確保したい」なら現金というように、目的から逆算すると整理しやすくなります。
なお、生活防衛資金まで「暴落時に投入する現金」に含めるのは別問題です。近い将来必要になる生活費や緊急資金と、投資用の待機資金は分けて管理することが重要です。
まとめ:2年後の勝敗は予測できない。ゴールドと現金では役割が異なる
「オルカン9:ゴールド1」と「オルカン9:現金1を保有して20%下落後に投入」のどちらが2年後に勝つかは、現在の時点では分かりません。株価が大きく下落せず上昇を続ければ現金待機は機会損失になりやすく、早期に大幅下落して回復すれば暴落時に追加投資する戦略が有利になる可能性があります。ゴールドについても、その2年間の金利、為替、地政学情勢、投資需要などで結果が変わります。
ゴールド10%は主として分散を狙う資産配分、現金10%は将来の株式購入に備えるタイミング戦略という違いがあります。この2つを単純なリターン競争として考えるより、ポートフォリオの残り10%に「分散」を担当させたいのか、「暴落時の追加投資」を担当させたいのかを決めるほうが合理的です。
長期の資産形成が目的なら、2年後の相場を当てることより、暴落しても継続できる株式比率を決め、長期・積立・分散という基本を崩さないことが重要です。暴落待ちを採用する場合も、下落率の基準と投入方法をあらかじめ数字で決めておくことで、相場急落時の感情的な判断を減らしやすくなります。
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